勘合長の設定
さて、
設定トルクでねじ山が破損しないために、”Fex:ねじ山に作用する力”には、トルク設定計算時に算出される最大発生軸力FsHを当てはめる(トルク法での管理内)。
式でかけば、めねじ側 FmN > FsH 、おねじ側 FmB > FsH
この関係を使っておねじ/めねじで最小勘合長をそれぞれ算出、長い方を勘合長LmとすればOK。
->おねじの諸元から算出する最大トルク入力時に対し、勘合長Lmにてねじ抜けの発生なし
Note: 最大発生軸力FsHは、こちら参照 & FsHの計算値は、計算ツールの”補足情報2”内に計算結果あり
使用する式は、\( \tt F_{sH}=A_s\cdot\xi \cdot \sigma_{yB} \) ・・・⑥ である。
有効断面積 As、係数ξは記事のまま。σyBはおねじ材の耐力(降伏応力)
さて、計算。
めねじ側に必要な勘合長LmNは、めねじ側の条件 FmN > FsH より、 ④式&⑥式 を使えば
\( \tt L_{mN} >\displaystyle \frac{8\cdot \tt A_s\cdot\xi \cdot \sigma_{yB}}{7\pi\cdot d\cdot \cal x \cdot \tt \sigma_{BN}}\) ・・・⑦
同様におねじ側に必要な勘合長LmBは、FmB > FsH より ⑤式&⑥式 を使えば
\( \tt L_{mB} >\displaystyle \frac{4\cdot \tt A_s\cdot\xi \cdot \sigma_{yB}}{3\pi\cdot D_1\cdot \cal y \cdot \tt \sigma_{BB}}\) ・・・⑧
勘合長Lmは このLmN、LmBの長い方。
おねじの軸の破損
ここでは、おねじの軸自体が破損する時の荷重(FaB)は、おねじの材料の引張強さ(σBB)を使って
FaB=σBB・As (σBB:おねじの材料の引張強さ、As:軸の有効断面積)
としておく。
ボルトの破断 / おねじ部破損 / めねじ部破損
さて、冒頭にあげた”締結時に発生するねじの破損”の3か所
- めねじがねじ抜けする時の荷重(=めねじ山の強さ):FmN
- おねじがねじ抜けする時の荷重(=おねじ山の強さ):FmB
- ボルトの軸の破断荷重:FaB
に加え、ボルトの諸元から決まるFsH(設定可能な限界軸力)を比較すれば、
- トルク法での最大(限界)トルク入力時に、ねじ山が破損しないか
- 過大トルクが入力された場合に、どの箇所が破損するか
がわかる事になる。
簡単に言えば、限界軸力がおねじ&めねじのねじ山の強さを超えなければ、締結時にねじ抜けは発生しない。また、過大トルク入力時の破損する箇所は上記のNo.1~No.3の荷重値が最弱の箇所。
計算ツール
算出用にツールを作っておいた。
おねじの諸元からトルク法において入力できる最大トルク(限界トルク)を算出 + そのトルク時の最大発生軸力から、ねじ抜けの発生有無まで自動で計算するツール。
計算例
さて、一例として、M6ボルトを例にざざっと計算。
一番左(No.1)は、おねじ/めねじの材料強度はほぼ同じに設定、勘合長は Lm=dにて想定。
(特に意味はないが、そもそも各部位の強さってどんなレベル?の比較のため(感覚づけ)。。)
->結果:ねじ山強度は”おねじ<めねじ” だが、勘合長dのおかげでどちらのねじ山も十分に強く、過大トルクが入力されても、おねじの軸破断が最初に発生する。
No.2~6はめねじ側がアルミ鋳物、ねじ径6mmで統一。勘合長&おねじ材料強度を変化させた時の破損の変化具合。
表の一番下のコメントが、計算結果によるねじ抜け判定と過大トルク入力時の破損形態。
(表内の赤数字は最弱部、黄色が二番目)

この表(各ケース)についていえば、
冒頭の実績値/勘合長の設定(勘合長:d~2dで選択)と大体感覚に合う結果となる。
、、、が、そもそも締結においては摩擦係数自体のバラつきが大きいので、(軸力が思ったよりも発生せず)NGのはずが大丈夫なんて事もある。
次のページにて、ちょっとした設計配慮と材料の機械的性質の表をついでに、あと計算に使ったねじ山に作用する力についての注記。
<ケースNo.1> おねじ:6.8級 / めねじ:SS540(だいたい同じの材料強度の想定)
勘合長はLm=dで計算
<ケースNo.2> おねじ:8.8級 / めねじ:AC4C(材料強度に差がある想定)
勘合長はLm=dで計算
(おねじ諸元のみでの締結トルク設定はNG)
<ケースNo.3> ケースNo.2に対して勘合長を伸ばして、Lm=1.5dで計算
<ケースNo.4> ケースNo.3に対して、おねじの強度区分をひとつあげて、10.9級で計算
<ケースNo.5> ケースNo.4に対して勘合長を伸ばして、Lm=2dで計算