はじめに
前回の記事では、慣性力の一次元での作用(加速減速)、二次元での作用 (遠心力)を書いてみた。
今回は三次元での作用する慣性力、ジャイロ効果。
その仕組みを以下にて。。。
ジャイロ効果って? 三次元で発生する慣性力
ジャイロ効果って、とっつきにくい。
例でいうと、高速で回転しているモータ等を手にもって、傾けようとした時に感じる抵抗感がそれ。
意図した方向に物体が傾かないが故に、傾ける事自体に物体が抵抗しているような感覚/違和感をもってしまう。
この回転体中心軸を傾ける時に発生する動きの様をジャイロ効果と呼び、発生するモーメントをジャイロモーメントという。
遠心力と違って日常での体験は認識しづらいが、こういうので気軽に体感できたりする。意外とその力の大きさにびっくりする。お試しあれ。。
さてさて、回転体上の質点からすれば、ジャイロモーメントも遠心力と同じ慣性力(見せかけの力)。
すこし違うのは、2次元でその状況を捉える事ができる遠心力に対して、ジャイロモーメントは3次元でとらえる必要がある。
ただ、ジャイロモーメントも、発生する仕組みがわかれば”なんだそれだけかい!”って感じにはなるかと。。。
ジャイロモーメントが発生する状況
ジャイロモーメントは回転体を傾けている間のみ発生
ジャイロモーメントが発生する状況は、
- 回転体の中心軸を傾斜させたとき
(回転する剛体の中心軸を傾斜させるモーメントを与えたとき)
これだけ。
ジャイロモーメントは傾斜と同時に発生し、その発生面は
- ”中心軸の傾斜面に直角”かつ ”その中心軸を通る面”
その向きは、XYZ座標軸(右手系)を使い、回転体の中心軸をZ軸とし、Y軸廻りに傾斜させれば、ジャイロモーメントは
- X軸廻り
に発生する
その結果、中心軸は二つのモーメントを足し合わせた傾斜方向に傾く
(”意図して与えたモーメント”による傾斜(Y軸まわり)と”発生するジャイロモーメント”による傾斜(X軸まわり))
つまり、回転体の中心軸に一定方向の傾きを与えても、その意図通りには傾かない事を意味する
(これは、実感通り)。。
さて、以下にこのジャイロ効果が発生する仕組みを説明。
大まかに言えば、回転体上の各質点の慣性のせい。
(=回転体上の各質点の慣性が、ジャイロモーメントを発生させる要因となる)
ジャイロモーメントの発生する仕組み
まずは回転体の設定
またまたコマで考える(円盤+軸の剛体:図 ①)。
コマの円盤面の中心に座標軸の原点O、中心軸にZ軸をとる。(座標軸は右手系)。
このコマはZ軸正方向に対し右ねじ方向に回転している、とする。
さて、円盤と同一面上にx軸とy軸をとり、
- x軸上に点A&C
- y軸上に点B&D
をとる。また、これらの点は”固定点”として設定する(水平面は、傾斜前のxy平面)。
回転体を傾けた場合の円盤上の質点の動きを考える
さてここで、
コマの中心軸を、 y軸正方向に向い時計周りに傾ける(図②でいうと右下がり方向)。
つまり、x軸は水平面から傾きx‘軸方向へと向きが変わる。
この時、点B&点Dはそれぞれ
- 点B->点B’ (右下がり)
- 点D->点D’ (左上がり)
となり、この傾きにより点A、点Cを通過する質点の向きが変わる。
傾斜中に点Aを通過する質点の動きに注目する
前述の通り、点Aを通過する点は、傾斜により水平面から外され、右下がりの点B’方向へと向きを変えさせられる。
この質点の回転させられながら、回転軸とは別軸まわりに押し下げられる(押し上げられる)動きがジャイロモーメントの発生要因。
ジャイロモーメントが発生する方向
この質点の動きを少し詳細に。質点の動きを直行する3軸に分けてみる。
- ひとつはそもそもの進行方向(上図:進行方向)
-> その質点の持っている慣性の進行方向
さて残りの2方向のうち、
- ひとつは回転により発生する遠心力方向(上図:遠心力方向)
(=コマの円盤面上かつ質点の進行方向に対して直角方向)
- 最後のひとつがジャイロモーメントが発生する方向(上図:ジャイロモーメントを発生させる慣性力方向)
(=コマの円盤面に直角方向かつ質点の進行方向にも直角)
->つまり、質点の進行方向と遠心力の方向にも直行する方向
冒頭にて”ジャイロモーメントは3次元でとらえる必要がある”と書いたのは、このジャイロモーメントを発生させるこの慣性力が、円盤面から外れた3次元方向に働くため。
ジャイロモーメント効果を生む慣性力の発生する仕組み
再度、回転体の中心軸を傾斜させれば、円盤状の質点はその進行方向において回転方向のみならず、垂直方向にも変化する。
つまり質点からすれば、回転方向のみならず追加で”向きを変える力”が加えられる事になる。
(例えば、点Aには”押し下げる力”が追加で働く)
となると、である。
この力にも当然ニュートンの運動の第一法則(元の進行方向を維持しようとする性質(慣性))がはたらくため、向きを変えられた質点は動きを維持しようとする。結果、この”向きを変える力”にあがなう動きをしているようにみえる。
これが、例えば円盤上の点Aからみれば、質点を”押し上げる力”(上向きの慣性力として見える慣性力である。
-> この慣性力がジャイロモーメントのもと
Note:
念のため再度、この力は慣性力(見せかけの力)。質点は元の進行方向を維持させようとしているだけ。
点Cについても考え方は同じ。
ただ、点Aと逆の向きなので、点Cには逆の”押し下げる力”が働いているように見える。
(ちなみに、点Bと点Dを通過する回転体部分の質点については、回転軸を傾けても質点の向きは平行移動にて向きは変わらず。つまりこの方向には慣性力は発生しない。)
さて、手前側(点A側)と奥(点C側)の組み合わせにより、回転体の中心軸を右下がりに傾けると(②図)、回転軸の”上端は奥”&”下端”は手前に倒れる追加の動きが発生する。
これがジャイロ効果( ジャイロモーメント )とその仕組み
(当然、ジャイロ効果は、中心軸を傾斜させている最中にのみ発生)。
発生する慣性力は、点A&Cにおいて最大値をとり、点B&Dにおいては”0”。
ジャイロ効果まとめ
動きをまとめると、
- Z軸正方向に向かって時計周りで回転している回転体の中心軸に(下図では上面から見ているので、反時計周り)、Y軸正方向に向かって時計周りに中心軸を傾ければ(下図では右下がり)
-> X軸正方向に向かって”反”時計周りにジャイロモーメントが発生する。
(下図では正面図からみて、上端は奥に下端は手前に倒れる)
ちなみにいちいち覚えなくとも、、円盤状の一点、点Aに着目して
- 円盤上の点の元の向き(旧進行方向)
- 動かされた向き(現進行方向)
の二つから、軸を傾けたときの点Aの慣性が元はどこに向かっていたのかを考えれば、ジャイロ効果の向きは判断できる。
(上の例では、点Aは水平方向に動いていたのに、それを下げる方向に向けている。慣性力はそれにあがなう方向。つまり上を向く。結果、外からみればコマの中心軸の上端は奥、下端は手前に倒れる。)
動きが3次元になっただけで、慣性力の追っかけ方は遠心力と同じである。
補足:ジャイロ効果の体感
手のひらサイズでジャイロモーメントの大きさを体感できる道具
ちいさなローラーを廻してジャイロモーメントを発生させて手首を鍛える道具だが、こんな小さなローラーがこんな大きなモーメントを発生できるのかとびっくりする。
-> ホントはトレーニング機器。
回転数上がってくるとキーンって音が鳴りだして、限界を試したくなる。。手首がもげそうにけど。。。
向きについて簡単に観察できるのは、地面の上で回転させるコマが倒れる直前。
地面の上で回っているコマは、回転が落ちるにしたがって中心軸が徐々に傾き転倒に至るのはご存じの通り。この時、軸の頂点が螺旋を描きながら転倒していく事も簡単に観察できる。
この螺旋の向きを決めているのが、前述のジャイロモーメントと軸を傾斜させるモーメント(重力による)。中心軸の頂点の螺旋の軌跡はこれが重なった結果の動き。
-> コマの回転方向が頂点が描く螺旋の向きを決めている
まとめ
結局のところ、ジャイロ効果による動きは、質点が維持しようとしている慣性(速度&方向)がどうなっているか見極めればわかる。
つまり回転体上の質点の慣性の維持から、どの方向に慣性力を発生させているか。。を考えることが、中心軸が追加でどちらに傾くか(ジャイロ効果の発生)、がわかる。
遠心力もジャイロ効果も、この考えで動きを捉えればよい。
追記
まぁ、メカエンジニアにとって、(モータ、エンジン、タイヤ等々)高速で回転する回転体の製品への搭載を検討しなければならない状況は多々ある。
特に、移動を前提とする製品に回転体を搭載する場合、その中心軸が傾けられる状況は想定内の状況。
この時にジャイロモーメントも含めた慣性力が、一通りパッと頭に浮かべる事ができる事って、事象の想定/理解/解析に役に立つ事が多い(特に問題が起きた場合)。
まぁ体感してみるのが一番かもしれないが、物理式なくてもその発生の仕組みの感覚はつかめるので、まずは頭の片隅の知識として。。。