行列 1). 行列とは? 主な行列とその使い方(正方行列、単位行列、逆行列、転置行列、直行行列)

行列

はじめに

以下 特に注記が無い限り、

  • 行列は、英大文字+太字+斜体文字で示す (例:A)
  • 行列の成分は英小文字。
    添字が2文字ついている場合は、行番号&列番号を表し、行番号->列番号の順。
    (例:aij <- 成分a, 行番号i, 列番号j)

行列計算(主にベクトル計算を想定)は、工学においては様々な場面で多用されている。

単独で式を処理するより、行列の一定のルールに基づいた計算方法でまとめて処理をした方が、計算の煩雑さをかなり回避できるためである。道具として便利。

行列がわかれば道具として当然利用しやすくなる(応用も効きやすい)。まずはストレスなく使うために、行列の基礎知識から。

行列(matrix)とは

行列とその見方

行とは横筋(raw)の数字の並び、列とは縦筋(column)の数字の並び。

行と列を組み合わせた数字の群を行列(matrix)と呼ぶ。

mxnの行列とは、m行の横筋の並び、n列の縦筋の並びで構成される。

\(
A _{mn} = \left ( \begin{array}{c|c|ccc}
\color{red}{a_{11}} & \color{red}{a_{12}} & \ldots & \color{red}{a_{1n} }& \large{1行} \\
\hline
\color{red}{a_{21}} & a_{22} & \ldots & a_{2n}& \large{2行} \\
\hline
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \\
\color{red}{a_{m1}} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}& \\
\large{1列}&\large{2列}&&&
\end{array} \right ) \\
\)

行列は横一行を単位とした行ベクトル、もしくは縦一列を単位とした列ベクトルでみる。

\(
\left ( \begin{array}{c:cccc}
a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} & \large {行ベクトル} \\
\hdashline
a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} & \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \\
a_{m1} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}& \\
\large{列ベクトル}&&&&
\end{array} \right ) \\
\)

ちなみに、

m次元空間のベクトル成分表示 \( \left ( a_{1}~a_{2}~\ldots~a_{m} \right ) \)、もしくは \( \left ( \begin{array}{c}
a_{1}\\
a_{2} \\
\vdots\\
a_{m}
\end{array} \right ) \) は、

1xm行列 \( \left ( a_{1}~a_{2}~\ldots~a_{m} \right ) \) 、もしくはm x 1行列 \( \left ( \begin{array}{c}
a_{1}\\
a_{2} \\
\vdots\\
a_{m}
\end{array} \right )
\) と意味は同じ。

行列はベクトルの組合せ。

正方行列

行数と列数が等しい場合(m=n)は正方行列と呼ばれる。

単位行列

単位行列とは、正方行列において、行番号と列番号が等しい成分のみが1(右下がりの対角成分のみが1),その他全ての成分が0の行列を、単位行列と呼ぶ(Eで表す)。

\(
E = \left ( \begin{array}{cccc}
1 & 0 & \ldots & 0 \\
0 & 1 & \ldots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \ldots & 1 \\
\end{array} \right ) \\
\)

単位行列は直行行列(後述)である。

単位行列 A に対し、

  • AE = EA = A ・・・①

この行列内の行ベクトル/列ベクトルは全て 長さ”1”かつ互いに直行である事(正規直行基底)から、単位行列は、

  • n次元の座標軸の方向ベクトルを、行と列にもつ行列

と捉える事もできる。

逆行列

逆行列とは、

正方行列 A に対して、

  • AA-1 = A-1A = E

となる A-1 が一意に決まる時、A は正則行列であるといい、 A-1A の逆行列という。

  • AA-1 = A-1A = E ・・・②

逆行列の性質としては、

  • 1. 逆行列の逆行列でもとに戻る
    (A−1)−1 = A ・・・③
  • 2. 行列の積ABの逆行列は、Bの逆行列とAの逆行列の積(逆順序の積)に等しい
    (AB)−1 = B−1A−1 ・・・④

ちなみに、逆行列には”行列式”というものがが付いて回る。A の行列式は、 |A| もしくは det A で表す

行列式、逆行列の中身の理解については、余因子 a とその余因子行列 A の理解が必要
(ただ、余因子がわかれば、あとは楽)

ちなみに、余因子行列は AA = (det A) E の性質を持つように定義される事から、逆行列の定義 A-1A = E も使って展開すれば、

\( A^{-1} = \displaystyle\frac{1}{det~A} \cdot\tilde{A} \) である。

つまり、A が逆行列をもつ条件は、行列式 det A ≠0である事が条件となる

転置行列

行列の行と列のベクトルを入れ替えた行列を、転置行列と呼ぶ。

つまり、行番号を(i)列番号(j)としてA の行列成分を aij とした時、この i , j を入れ替えた aji とした行列(行と列の入替え)を A の転置行列と呼び、Atr 表す。

\(
A = \left ( \begin{array}{cccc}
\color{red}{a_0} & \color{red}{ a_1} & \ldots & \color{red}{a_n} \\
b_0 & b_1 & \ldots & b_n \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
m_0 & m_1 & \ldots & m_n \\
\end{array} \right ) \) -> \( A^{tr} = \left ( \begin{array}{cccc}
\color{red}{a_0 }& b_0 & \ldots & m_0 \\
\color{red}{a_1} & b_1 & \ldots &m_1 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
\color{red}{a_n} & b_n & \ldots & m_n \\
\end{array} \right ) \)

転置行列の定義(成分の入れ替えだけ)からも明らかではあるが、以下の性質をもつ

  • 1. 転置の転置でもとに戻る
    (Atr)tr = A ・・・⑤
  • 2. 行列の和の転置は転置した行列の和に等しい
    (A+B)tr= Atr + Btr ・・・⑥
  • 3. α倍(スカラー倍)した行列の転置は、Aを転置した行列をα倍した行列と等しい
    A)tr = α Atr (α:スカラー量)・・・⑦
  • 4. 行列の積ABを転置した行列は、Bの転置とAの転置の積(逆順序の積)に等し
    (A・B)tr= Btr・Atr ・・・⑧

正規直行行列

正規直行行列とは、正方行列A (n x n 行列)の転置行列 Atr

A Atr = Atr A = E

の性質を持つとき、Aを直行行列とよぶ

直行行列は、以下の性質を満たす。同値のため一つをみたせば直行行列(一つ確認できればよい)

1. 直行行列Aは、転置行列と逆行列が等しい
A-1Atr ・・・⑨

∵ 逆行列の定義( AA-1 = A-1A = E )から、Aが直行行列の場合、Atr A の逆行列

2. A のn本の行ベクトルが正規直行基底をなす
(互いに直行、大きさ1)

3. A のn本の列ベクトルが正規直行基底をなす
(互いに直行、大きさ1)

4. 任意の実数ベクトル x の大きさと、Aによる変換ベクトル Ax の大きさは等しい
|Ax| = |x|・・・⑩

5. 任意ベクトル xの内積と、Aによる変換ベクトル AxAの内積は等しい。
AxA = x・・・⑪

6. 直行行列の積も直行行列


A,B を直行行列とすると
AB・(AB)tr = E ・・・⑫
AB・(AB)tr = A・(B・Btr)・Atr =A・Atr= E

単位行列以外にも、回転行列(別記)が該当する。

正規直行基底については

使い方の例(逆行列、転置行列)

逆行列の使い方(例)

行列の演算にわり算はない。ただ、逆行列 A-1 を使った演算が、それに近い使い方となる。

例えばあるベクトル が行列 A の変換により y になったとする。

y の関係式は

y = A

逆に y から x を求めるには、逆行列 A-1 を両辺の左から掛け、⑥式を適用する。
(四則演算のわり算で逆数をかけるのに近い)

つまり、

A-1 y = A-1A =

よって

= A-1 y

(方程式の解を求める時にも、よく見るかと)

ただ行列の積の性格(A・BB・A)上、逆行列を掛ける”順序”は、左右両辺同じ方向から掛けなければならない。

参考までに、\(A \) が \(
A = \left ( \begin{array}{cc}
a & b \\
c & d
\end{array} \right ) \) の正則行列(2×2)の時、行列式、余因子行列と逆行列は、

\( det~A = ad – bc \) 、\( \tilde{A} =\left ( \begin{array}{cc}
d & -b \\
-c & a
\end{array} \right ) \) より、

\( A^{-1} = \displaystyle\frac{1}{ad – bc} \cdot
\left ( \begin{array}{cc}
d & -b \\
-c & a
\end{array} \right ) \) となる。

力学で使うのはほとんどの場合 3×3 行列までであるが、この行列の逆行列の成分計算は少し複雑になるため、計算間違い防止の意味も含め、ほとんどの場合ソフトに計算させる場合が多い。

ただ手計算が必要であっても、座標軸変換等での行列は正規直行行列での行列利用になるため、まじめに計算せずに、次章の転置行列から逆行列を求める場合が多い。

-> 逆行列&行列式のこれ以上の詳細は別記事(予定)で。。

転置行列の使い方(例)

転置行列が道具として使いやすいのは、特にその行列が正規直行行列の場合。

逆行列計算が簡単になる。行列をひっくり返すだけ(ベクトル回転させる時によく使う)。

正規直行行列の⑧の性質を使っている。

  • 直行行列Aは、転置行列と逆行列が等しい
    A-1Atr ・・・⑧

一つの直行行列の場合には、大したメリットは感じないが、複数の正規直行行列を変換するような場合(行列の積)に有用なのである。

正規直行行列同士の積は正規直行行列である事(⑪式)も使って、その複雑な成分計算結果を、ただひっくり返すだけで逆行列にする事ができる。

楽である。

例えば、あるベクトル

θ(rad)回転
-> 続いてφ(rad)回転

した場合の回転行列、φθで考えてみる。
(θ φは共に正規直行行列、よってφθ も 正規直行行列)

二つの回転後のベクトルを y とすると、

xy に変換するには、

y = φ θ ・・・

となるが、逆に y から x を求めるとなると、φθ逆行列が必要になる。

が、まじめに計算する必要はない。

φ θ の成分計算後であれば、必要となる逆行列に転置行列を代入して

= (φθ)-1 y より
= ( φθ )tr y ・・・

<- 計算したφθ の成分の行と列をひっくり返すだけ

φθ を個別に処理するのであれば、

(φ)-1 、 (θ )-1 の逆行列を順にかけ

= (θ )-1 (φ)-1 y より
= (θ )tr (φ)tr y ・・・

<- φθ 個別に行と列をひっくり返して、その後成分計算

当たり前ではあるが、(⑦式より)⑭式と⑮式は等しい。

複数の行列の積を手計算で求めた後に、その逆行列成分を求める。。。となると気が遠くなるが、正規直行行列であれば心配無用。

転置行列が逆行列となる
(行と列をひっくり返せばよいだけ)。

追記

さて、続いてはこの行列自体の和、差、積について(割り算はないが、逆行列による積が似た感じの使い方になる)。

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