コミュ-2)-1. 人の意思決定の仕組み:意思決定過程とトップダウン情報

2) 人が意思決定する仕組み

はじめに

この記事で議論/討論で誘導される要因について書いた。今回は説得されてしまう側について

全く同じ話を聞いたとしても、その話に同意する/しないは人によって異なる。
また、説得されるかどうかも人による。つまりその人次第。その人自身の意思に依存する。

では、そもそも人の意思決定ってどうやっているの?と、説得されやすい人/難しい人っているけど、何で?と。

参考にしたのは以下の本。

社会心理学からみたマインドコントロールへのアプローチがメインであるものの、その手前で、人の意志、人の行動の取り方等の理論/背景がまとめて書かれており、非常に面白い。ここを抜粋。

人が説得されていく仕組みの一端が見て取れる。

ちなみに、本著のメインのマインドコントロールの特にディープなところは、割愛。

しかし、世の中にはいろんな人がいろんな事を研究しているもんだわ。。。

人の意思決定構造 / 過程

養老孟司「バカの壁」にも書いてあったが、人の意志決定過程を「情報処理システム(ビリーフシステム(belief system))」として捉える。要は電卓である。

外界からの情報をインプットし、何らかの処理と加工を施し、アウトプットをだすシステムである。

情報処理の観点に立つ心理学では、意思決定という内的な活動には、常に二種類の情報を利用しているとされる。つまり、

トップダウン情報” と“ボトムアップ情報” である。

  • トップダウン情報
    :今までに(前もって)獲得されてきた記憶構造の中に貯蔵されている情報
  • ボトムアップ情報
    :情報処理時に五感を通じて外界より取り入れる情報の事

トップダウン情報は、意思決定中に処理される「知識」「信念」をさす。

心理学用語ではトップダウン情報を「ビリーフ」(belief)という。

トップダウン情報 (ビリーフ)

トップダウン情報は意思決定中に処理される「知識」「信念」をさす。

心理学用語ではトップダウン情報を「ビリーフ」(belief)という。
ビリーフを使った人の思考装置を ビリーフシステム とよぶ。

人の思考装置: ビリーフシステム

ビリーフシステム に使われる、ビリーフ(belief)とスキーマ(schema)について

ビリーフとスキーマ

トップダウン情報の基となるビリーフとは、ある対象(人や事象)と、他の対象、概念、あるいは属性との関連によって形成された認知内容のことをさす。

日常的な表現でいうと「信念」だけでなく 「知識」「偏見」「妄想」「ステレオタイプ」「イデオロギー」「信条」「信仰」である。また、概略「常識」でくくられる認知内容も含む。

つまり、例えば、「神が宇宙を支配している」「A型の人は几帳面だ」「政治家は腹黒い」「霊界がある」なども、これにあてはまる。

人は、“各々”がこうしたビリーフを数多く所有し、自らの経験に即して整理し構造化し、システムを形成している。

さて、個々のビリーフは、思考あるいは意思決定という作業のための必要な「小道具」のようなものであり、「ビリーフシステム」は、これらのたくさんの小道具で構成された一つの「装置」であると比喩的に考えられている。

我々は、ほとんど反射的におこなっている自動的な思考から、意図して熟慮しておこなう思考まで、あらゆる意思決定の場においてこれを利用している。

つまり「ビリーフシステム」は情報を満載した図書館のようなものであり、一つ一つのビリーフが一冊の本である。

我々は意思決定において、全ての本を参照するのではなく、必要な本(ビリーフ)を幾つかだけをまとめて、利用しているのである。

この必要な本のまとまり(群)を心理学用語では「スキーマ(schema)」と呼ぶ。

もし、経験のない意思決定を求められ、残念ながらも個人がそれに必要な 「 スキーマ 」 や 「 ビリーフ 」 を持ち合わせていないとき、人は新たな”ボトムアップ情報”を求める事になる。

つまり、人は即座の意思決定が困難となることから、新たな勉強、もしくは他者に依存することになる。新たな「 ビリーフ 」 の形成である。

(新たな)ビリーフの形成は、

  1. 自己で経験したもの
  2. 推論によって導かれたもの
  3. 他者との相互作用において与えられたもの

の三種類の過程に分けられる。(演繹によって導かれたものは1に含める)。

これらのうち、2.の ”推論” や 3.の ”他者との相互作用” に頼る過程において、その確からしさには脆弱性ができてしまう

つまり、

「 人は自分の保有するビリーフは正しいと信じている 」 のであって、
「 絶対的に正しい 」 という性質のものではない。

スキーマ(schema)の活性化

思考という作業は、まず適切なスキーマを探しだすことにある。

探し出したスキーマは、いつでも必要なビリーフ(トップダウン情報)を引き出しやすいように待機している。

図書館でいえば、役立ちそうな書架の前に立って本を見ているようなものだ。

これをスキーマの活性化と呼ぶ。

この様な適切なスキーマの活性化に失敗したとき、我々は「わからない」「知らない」という判断をして、問題の直接的な解決ができない状態になる。

トップダウン情報 (ビリーフ) の操作

トップダウン情報 (ビリーフ) の効果

ビリーフシステムからのトップダウン情報が、意思決定過程に及ぼす効果の実験結果がある。

Kelly,H.H.,(1950)の印象形成の実験、 Rothbart,M.&Birrer,.P.(1977)の印象形成の実験がこれにあたる。

人を2つのグループにわけ、同一人物を紹介。
先行情報として片方には優しい人物であると紹介しておくと、人はその人の第一印象を優しい人との認知する傾向を示し、他方には冷たい人物との先行情報を与えれば、人は冷たい人と認知する傾向を示す。先入観である。

これは、トップダウン情報を操作し、ある特定のスキーマを活性化させておく事により、ボトムアップ情報の処理をある特定の方向へと誘導する事ができる事を示している。

人物紹介はただの情報でしかないが、与えられた情報でどのスキーマが活性化させられているか?により、その意思決定は強く影響されるとされる。

ややこしいのは、判断した本人は、この教示の影響力に気づかない傾向がある事である。

ビリーフシステムの他者操作の可能性

一言でいえば、前述のビリーフシステムの脆弱性をつつくのである。

人の確信はどんなに強いものであっても、以下のどちらか、もしくは両方のリアリティに支えられているに過ぎない。

「個人的リアリティ」:個人的な経験/推論によって何となく感じているリアリティ感覚
「社会的リアリティ」:権威ある専門家の発言、多くの人が認めている考えである、といった感覚

ちなみに、 「そうであってほしい」 、 「そうでなければ困る」といった情緒や動機づけによるビリーフを支えるのも、”個人的リアリティ ”である。
例えば、他者から妄想と言われながらも、”霊界がある”と信じる事を支えるのは 個人的リアリティ。

つまり、そう信じているだけであって、 ビリーフシステム の正誤に厳密性はない。
当たり前だが、同じ話を聞いても、人の判断は人によって変わる(ビリーフシステムが違う)。

他者による聞き手への意思決定の操作は、この曖昧さをうまく利用する。

つまり、個人的になんとなく感じている「個人的リアリティ」と、社会的な「社会的リアリティ」に基づくビリーフが共に厳密ではない事を利用し、操作者の「正しい」ものを受け手に思い込ませ、新しいビリーフを形成させるのである。

例えば、”○○は常識”、”○○するのは人として当たり前” を聞いた人が、もしそのビリーフがなく、そのまま受け入れたとすれば、その人はその新しいビリーフを受け入れた(形成された)事になる(ビリーフ修正も同じ)。

その人の判断は、もちろんその人自身によるものであるが、判断の道具の元になるビリーフは他者からの刷り込み、つまり、他者がその人の判断を間接的にコントロールできる可能性が存在しているのである。

続けて

引き続き、ボトムアップ情報(意思決定時の判断材料)について。
意思決定に際し人がどのような傾向で判断材料を選択するかも、知っておいて損はない。

あわせて、人がどのようされると説得に対して承諾まで誘導されやすいかの要因も。

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