ねじ 1)-2. ねじの強度区分、入力トルクと軸力(張力)の関係について

1) ボルト(ねじ)の力学

はじめに

前回の記事はねじの概要(ねじの名称、締結の仕組み、締め付け線図)までの概要。

今回は、ねじの強度区分から入力トルクと軸力の関係まで

今回もこの二冊がベース

”ねじ締結の原理と設計”と”ねじ締結概論”。

ねじの強度区分

ボルトの強度区分は X.Y (例 8.8、10.9・・・) の数字で表記される。
小数点以上/以下で別の意味をもち、

小数点以上の数字 X:ボルトの呼び引張強さの1/100の値
小数点以下の数字 Y:X に対する 呼び下降伏点 or 呼び耐力の割合の1/10の値

つまり、強度区分6.8の意味は、

  • ボルト/ナットの呼び引張強さが 600N/mm2
  • 呼び下降伏点(か呼び耐力)の割合が80%で 480N/mm2(=600x0.8)

となる。

この場合、設計で使う規格降伏点は 640N/mm2

(”呼び”とあるのは材料の機械的性質の値ではなく、ボルトの強度区分を示すための規格値のため。)

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トルクと軸力(張力)の関係

前回の記事にも書いたが、入力されたトルクTf(T)はボルト周りでみれば

  • ボルト座面に作用するトルク(b):Tw
  • ねじ部に作用するトルク(a):Ts

に分けられる。つまり、

Tf = Tw + Ts

座面に作用するトルク:Tw

座面に作用するトルクTwの算出

発生している軸力をFs、座面の摩擦係数 μ 、座面等価摩擦直径をDwとすれば、トルクT

となる。また、ここでDwは、

  • Dw:座面等価摩擦直径

    (dw:座面径、dn:ボルト穴径 )

を用いる。

言うまでもなく、これはただのモーメント計算(モーメント長 x力)と同じ。

ねじ面に作用するトルク:Ts

さて、ねじ面に作用するトルクTs も、ただのモーメント計算。

少し違うのは、ねじ面は斜面となるので、斜面の定理を使って回転の行われる水平面(=軸に直角面)の力を算出、これにモーメント長をかけてトルクTsを算出する必要がある。

ねじ面に作用するトルクTs の算出

ねじ面に作用するトルクTsは、ねじ面斜面に発生する力の水平成分をU、ねじの有効径をdpとすると

である。

ここまでは、まだ水平面上のただのモーメント計算(Twと同じ)。

ここからUを算出するのに斜面の定理を入れ込むが、 ちょっと複雑なのは、Ts が発生する斜面が一つの角度θではなく、ねじの山角 α、およびリード角βの合成した角度の斜面となっている事。
(バンク角のついた坂道みたいなもの)

この部分の説明(合成した角度における斜面の定理の導入)は、ちょっと量があるので後の記事にて。

今回はUの算出式まで一気にスキップ。

(斜面の定理の基礎的なトコロからであればこちらから)

基本的には斜面の定理を使いUを求める。

発生軸力をFs、ねじピッチP、 ねじの有効径dp 、ねじ面の摩擦係数 μs 、ねじの山の半角をαとし、斜面の定理を使えば、水平方向にかける力Uは、

(+Pが締付け側、 -Pは緩め側)

これを使ってUにモーメント長の dp/2 をかければ、ねじ面に作用するトルクTsとなるため

となる。

(入力トルク) = (座面に作用するトルク) + (ねじ面に作用するトルク)

以上の TwTs を使えば、 締付けトルク Tft は、Tf = Tw + Ts より

締付け側を Tfl 、ゆるめ側トルクを Tfl とすれば

・・・①

であり、

・・・②

である。

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軸力(張力)の算出

式を変形すれば、Fs

つまり、ねじの軸力は以下の仕様で決まる。

  • ねじの諸元
  • 摩擦係数
  • 入力トルク

軸力と摩擦力

入力したトルクが軸力に変換される割合を考える。

一旦整理すれば、

入力トルク(Tf)と軸力(Fs)の関係 (Motoshの式)

つまり、入力トルク (Tf) は、

  • 座面の摩擦によるトルク
  • ねじ面の摩擦によるトルク
  • 伸び(軸力発生)によるトルク

の3つに配分される

いくつかの例を簡単に計算してみる。

これをみれば、入力されるトルクは、

  • トルクの8-9割は、摩擦に消費される(座面(5~6割)、ねじ面 (34割) )。
  • 軸力に変換される割合は最大でも2割もいかない(ドライ締付けでは1割程度

である事がわかる(摩擦消費分を減らせば、軸力は上がる)。

この割合をイメージとして持っておく。

トルク係数

さて、式の簡易化するために、トルク係数がよく使われる。締め側のトルク

に、呼び径dを追加して、

ここから

とすれば①式は

Tf = (AtFS)・d ・・・③

-> トルク (Tf )=モーメント長(d) x 力 (AtFS)

と見る事ができる。このAt を、トルク係数と呼ぶ。

補足

さて、Atもd もねじの諸元によってきまる定数、 つまりAt・dも定数 。

Tf = (At・d)・FS と再度書き直せば、トルク Tf と発生軸力FS は、単純な線形一次の関係である事がわかる。

(トルクが10%Upすれば軸力も10%Up)

また、ついでに摩擦係数等の変化させる事よりトルク係数Atを変えた場合を考える( At1,-> At2)。

Tf = (At1・d)・FS1 = (At2・d)・FS2 これから

FS2 / FS1 = At1 / At2

トルク係数の変化は発生軸力の変化と反比例する。

(トルク係数が10%Downすれば軸力は10%Upする)<- 例:摩擦係数を下げれば軸力は上がる

まとめ

トルク算出式とトルク係数

Tf = AtdFS

—–

ちなみに、 At すべてねじの諸元できまる。

ねじの諸元:ねじピッチP、ねじ山の半角α、ねじ有効径dp、座面等価摩擦直径Dw

摩擦係数:ねじ面摩擦係数 μs、座面摩擦係数 μ

呼び径:d

軸力計算ツール

簡単に様々なボルトの軸力が計算できるように、軸力計算用のツールを作っておいた

入力トルク-軸力関係の特徴

さて以上を踏まえて、特徴をまとめると以下。

頭の片隅に置いておくとイロイロ便利

  • 入力されるトルクは、ほとんどが座面とねじ面の摩擦に消費される(8-9割)。
    摩擦を下げれば軸力はあがるが、軸力に変換されるトルクは最大でも2割もいかない
  • (同一ボルトにおいて)
    発生軸力の変化の割合は、入力トルクの変化の割合と等しい
    • 例:トルクが10%Upすれば軸力も10%Up
  • (同一ボルト、同一トルクであれば)
    発生軸力の変化の割合は、トルク係数の変化の割合に反比例する
    • 例:トルク係数が10%Downすれば、軸力は10%Up(例:ウェット締付)
  • (同一ねじ径、同一締め付けトルクでは)
    座面径を下げれば、軸力はあがる
    • 例:頭部形状のみ異なるフランジボルトに同じトルクを入力した場合、座面径の小さいボルトの方が軸力は高い
  • (同一頭部形状、同一締付けトルクでは)
    ねじ径が小さい方が軸力は高い
  • (同一ねじ径、同一頭部形状)
    ねじピッチを下げれば、軸力は上がる

追記

つづいて、入力トルクの設定方法と管理(トルク法)について。

入力トルク管理には トルク法、回転角法、トルク勾配法がある。

以下の記事にて

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