はじめに
前回の記事はねじの概要(ねじの名称、締結の仕組み、締め付け線図)までの概要。
今回は、ねじの強度区分から入力トルクと軸力の関係まで
今回もこの二冊がベース
”ねじ締結の原理と設計”と”ねじ締結概論”。
ねじの強度区分
ボルトの強度区分は X.Y (例 8.8、10.9・・・) の数字で表記される。
小数点以上/以下で別の意味をもち、
小数点以上の数字 X:ボルトの呼び引張強さの1/100の値
小数点以下の数字 Y:X に対する 呼び下降伏点 or 呼び耐力の割合の1/10の値
つまり、強度区分6.8の意味は、
- ボルト/ナットの呼び引張強さが 600N/mm2
- 呼び下降伏点(か呼び耐力)の割合が80%で 480N/mm2(=600x0.8)
となる。
この場合、設計で使う規格降伏点は 640N/mm2 。
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(”呼び”とあるのは材料の機械的性質の値ではなく、ボルトの強度区分を示すための規格値のため。)
トルクと軸力(張力)の関係
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座面に作用するトルク:Tw
座面に作用するトルクTwの算出
発生している軸力をFs、座面の摩擦係数 μw 、座面等価摩擦直径をDwとすれば、座面に作用するトルクTwは
となる。また、ここでDwは、
- Dw:座面等価摩擦直径
(dw:座面径、dn:ボルト穴径 )
を用いる。
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言うまでもなく、これはただのモーメント計算(モーメント長 x力)と同じ。
ねじ面に作用するトルク:Ts
さて、ねじ面に作用するトルクTs も、ただのモーメント計算。
少し違うのは、ねじ面は斜面となるので、斜面の定理を使って回転の行われる水平面(=軸に直角面)の力を算出、これにモーメント長をかけてトルクTsを算出する必要がある。
ねじ面に作用するトルクTs の算出
ねじ面に作用するトルクTsは、ねじ面斜面に発生する力の水平成分をU、ねじの有効径をdpとすると
である。
ここまでは、まだ水平面上のただのモーメント計算(Twと同じ)。
ここからUを算出するのに斜面の定理を入れ込むが、 ちょっと複雑なのは、Ts が発生する斜面が一つの角度θではなく、ねじの山角 α、およびリード角βの合成した角度の斜面となっている事。
(バンク角のついた坂道みたいなもの)
この部分の説明(合成した角度における斜面の定理の導入)は、ちょっと量があるので後の記事にて。
今回はUの算出式まで一気にスキップ。
(斜面の定理の基礎的なトコロからであればこちらから)
基本的には斜面の定理を使いUを求める。
発生軸力をFs、ねじピッチP、 ねじの有効径dp 、ねじ面の摩擦係数 μs 、ねじの山の半角をαとし、斜面の定理を使えば、水平方向にかける力Uは、
(+Pが締付け側、 -Pは緩め側)
これを使ってUにモーメント長の dp/2 をかければ、ねじ面に作用するトルクTsとなるため
となる。
(入力されたトルク) = (座面に作用するトルク) + (ねじ面に作用するトルク)
さて、”入力されたトルクTf” は、座面に作用するトルクTw と ねじ面に作用するトルクTs を足し合わせたもの(Tf = Tw + Ts )。
このトルクTf は、ねじにリード角があるが故に回転させる方向によって異なる(締付け側がリード角の上り方向、ゆるめ側がリード角の下り方向)。 締付け側を Tft 、ゆるめ側トルクを Tfl とすれば
締付け側トルクTft は、
・・・①
ゆるめ側トルクTfl は、
・・・②
となる。
軸力(張力)の算出
式を変形すれば、軸力Fsは
つまり、ねじの軸力は以下の仕様で決まる。
- ねじの諸元
- 摩擦係数
- 入力トルク
軸力と摩擦力
入力したトルクが軸力に変換される割合を考える。 一旦整理すれば、
いくつかの例を簡単に計算してみる。
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つまり、入力されるトルクは、
- トルクの8-9割は、摩擦に消費される(座面(5~6割)、ねじ面 (3~4割) )。
- 軸力に変換される割合は最大でも2割もいかない(ドライ締付けでは1割程度)
これがねじ締結体のトルク配分の素性&ざっくり目安。
ちなみに、摩擦消費分を減らせば、軸力配分が上がる。
->これが、軸力を上げたい時にウェット締付けが採用される理由(同じトルクで締め付けても軸力が上がる)
トルク係数
さて、式の簡易化するために、トルク係数がよく使われる。
締め側のトルク
の分母分子に呼び径dを追加して、
これから
とすれば、①式は
Tf = (At・FS)・d ・・・③
-> トルク (Tf )=モーメント長(d) x 力 (At・FS)
と見る事ができる。このAt を、トルク係数と呼ぶ。
補足
さて、Atもd もねじの諸元によってきまる定数、 つまりAt・dも定数 。
Tf = (At・d)・FS と再度書き直せば、トルク Tf と発生軸力FS は、単純な線形一次の関係である事がわかる。
(トルクが10%Upすれば軸力も10%Up)
また、ついでに摩擦係数等の変化させる事よりトルク係数Atを変えた場合を考える( At1 -> At2)。
Tf = (At1・d)・FS1 = (At2・d)・FS2 これから
FS2 / FS1 = At1 / At2
トルク係数の変化は発生軸力の変化と反比例する。
(トルク係数が10%Downすれば軸力は10%Upする)<- 例:摩擦係数を下げれば軸力は上がる
まとめ
軸力計算ツール
簡単に様々なボルトの軸力が計算できるように、軸力計算用のツールを作っておいた
入力トルク-軸力関係の特徴
さて以上を踏まえて、特徴をまとめると以下。
頭の片隅に置いておくとイロイロ便利
追記
つづいて、入力トルクの設定方法と管理(トルク法)について。
入力トルク管理には トルク法、回転角法、トルク勾配法がある。
以下の記事にて