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二輪車のトレール、ホイールベース計算方法 (バイクの車両諸元計算の入り口)

車両諸元

二輪車の車両諸元の計算

ベクトルを道具として使うとこんな計算もやりやすくなる、という例を。。。

ママチャリでは聞かないが、モーターサイクルにしろ競技用の自転車等で、操安向上目的にてフロント周りの変更(パーツ交換等にて)、サスペンションのセッティング変更を行う場合がある。で、変更する際に必要な情報の一つが、それにより操安性に影響するキャスター角、トレール、ホイールベースの値がどれぐらいが変わるか?の情報。

これをベクトルの内積計算 & 回転行列を使って計算。この計算はベクトルで考えると整理しやすい。

(内積、回転行列については以下を)

さて今回は、サスペンションのストローク変化に伴うキャスター角、トレール長、ホイールベース長の計算を主眼として、二次元で考える(転舵時の計算はまた今度)。

座標系を O0X0Z0(右手右ねじ系)とし、モデルの構成は以下とする。

図①
  • フロントタイヤ(アクスル中心(点 Aft)を保持するフロントフォークは、トップブリッジ&ボトムブリッジを介してステアリング軸をもつフレームボディのヘッドパイプ(以下 H/P )にてフレームボディーに結合される
    H/P の下端点を点 Hl とする)
  • リアタイヤ(アクスル中心(点 Arr) を保持するリアフォークは、その回転のピボット点 にてフレームに結合される
  • 座標系 O0X0Z0 の原点 O0にフレームボディーのリアフォークピボット点を設置し、キャスター角 θc0 にてH/P 下端高を設置し、フレームボディーを O0X0Z0 に固定する(ばね上固定)。
    (キャスター角 θc0 :フレームボディーの H/P 軸(ステアリング軸)と鉛直方向(Z0 軸平行)のなす角)
  • リアタイヤの位置はリアフォークのピボット点を中心とした回転方向(②)に沿ってのみ動く
  • フロントタイヤの位置はフロントフォークの伸縮方向(①)に沿ってのみ動く

さて、フロントタイヤ接地点とリアタイヤ接地点を結ぶ線がグランドライン(地面基準の水平線:以下 G/L)、また、ホイールベース長はこの二つの接地点の距離となる。

またトレール長は、H/P 軸を延長して G/L と交わる点と、フロントアクスルから G/L に投影した点との距離。

ばね上を固定しているので、サスペンションのストローク量が変われば G/L が変わる。
(ざっくりと言えば、ばね上(フレームボディー)を座標系 O0X0Z0 に”固定”。サスペンションストロークに伴いばね下が動き G/L が動くモデルモデル)(下図)

図②

ホイールベース等の諸元変化の計算を目的としているので、ばね下だけを動かす方がベクトル計算の式がたてやすい。

まずあらかじめ、算出した式一覧は、、

式一覧

Frアクスル座標 ((5)式は簡易版、(40)式は詳細版)

(x0Aftz0Aft )=(x0Hplfssinθ0c(foff+aoff)cosθ0cz0Hplfscosθ0c+(foff+aoff)sinθ0c )(5)=(x0Hp+(thp+ttb+ufflff+sfr)sinθc0(foff+aoff)cosθc0z0Hp+(thp+ttb+ufflff+sfr)cosθc0+(foff+aoff)sinθc0 )(40)

Rrアクスル座標

(x0Arrz0Arr )=lrf(|cosφArr|lBx0B+|sinφArr|lrsz0B|cosφArr|lBz0B  |sinφArr|lrsx0B )・・・(14)

( cosφArr = lB2+lrf2lrs22lBlrfsinφArr = ±1cos2φArr )

グランドライン(G/L)の傾き

φGL=α  arcsin(arax2+az2) ・・・(21)

(sinα=azax2+az2 , cosα=axax2+az2 )

(ここで、 az=z0Arrz0Aft , ax=x0Arrx0Aft , ar=rrrrft )

G/Lを基準とした座標系への変換

(xz )=(cosφGLx0+sinφGLz0sinφGLx0+cosφGLz0 ) ・・・(23)

G/L基準のキャスター角

θc=θ0c+φGL ・・・(24)

G/L基準のホイールベース長

wb=cosφGL(x0Arrx0Aft)+sinφGL(z0Arrz0Aft)(27)=ax2+az2 cos(αφGL)(28)

( αは (21)式 と同じ )

G/L基準のトレール長

tr=|(cosφGLx0Aft+sinφGLz0Aft)  (cosφGLx0HP+sinφGLz0HP)  (sinφGLx0HP  cosφGLz0HP)tan|(θ0c+φGL)|+(sinφGLx0Aft  cosφGLz0Aft)tan|(θ0c+φGL)|+rfttan|(θ0c+φGL)||(37)

高さからのH/P座標、点Bの座標

(x0Hpz0Hp )=(lHPl2(h0Hph0O)2h0Hph0O ) ・・・(41)

(x0Bz0B )=(lB2(h0Bh0O)2h0Bh0O ) ・・・(42)

車両幅方向の補正

lxx=lact2ladj2) ・・・(43)

参考図

で、算出の詳細を以下にて、

グランドライン(地面)基準の車両諸元算出

計算の流れ

諸元計算の流れは、(以下 フロント: Fr、リア :Rrにて表記 )

  • Step1: フレームボディ(ばね上)を固定させた座標系 O0X0Z0 にて、H/P下端点基準にFrアクスル位置を算出
    Note: H/P下端点をFrストローク量算出の測定基準点に使用
  • Step2: 同様にフレームボディ後端あたりにある任意の点Bを基準にRrアクスル位置を算出
    Note1: 点Bをリアストローク算出の測定基準点に使用
    Note2: Rrタイヤは原点O0周りの回転方向移動であり、点BとRrアクスルの距離はリアストローク量とは一致はしない。

    ((角度より)長さの方が実測しやすいため、Rrストローク量算出の基準点代用として設定)
  • Step3:そのアクスル位置におけるFr&Rrタイヤの接線からG/L の角度 φGL を算出
  • Step4: 算出したφGL を使った回転行列 RφGL により O0X0Z0 を丸ごと回転させ、新しい座標系 O0X1Z1 に変換。
  • Step5: 変化後の各車両各諸元値を、O0X1Z1 の座標系にて算出

要は、 O0X0Z0 での G/L の傾き φGL を使いモデルごと回転させれば、回転後の座標系 O0X1Z1 では G/L は水平になる。

これを使って(タイヤ位置がどこであれ)O0X1Z1 上から読み取れば、車両の各諸元値はその座標値、もしくは簡単な足し算引き算で求められる、という感じ

設定したパラメータ名一覧を一旦以下に

図③

O0 : Rrフォークピボット点(原点)
h0O : Rrフォークピボット高 (1)
hO : Rrフォークピボット高
Hpl : H/P下端点位置
h0Hp : H/P下端点高 (1)
hHp : H/P下端点高
lHpl : H/P下端点-原点 O0 の距離
θ0Hp : O0HplX0 軸のなす角 (1) (2)
thp : H/P長
ttb : トップブリッジ厚
uff : Frフォーク 突出し量
lff : Frフォーク 全伸び長
sfr : Frフォーク ストローク量
l0fs : Frフォーク全伸び時のH/P下端面とFrアクスルの距離
lfs : H/P下端面とFrアクスルの距離
foff : フォークオフセット長
aoff : アクスルオフセット長
Aft : Frアクスル軸位置
A0ft : Frアクスル軸全伸び位置
h0Af : Frアクスル軸高 (1)
rft : Frタイヤ半径

B : (ばね上の)フレームボディ上の任意点(5)
h0B : 点B高 (1)
hB : 点B高
lB : 点B-原点 O0 の距離
θ0B : O0BX0 軸のなす角 (1) (2)
Arr : Rrアクスル軸位置
A0rr : Rrアクスル軸全伸び位置
rrr : Rrタイヤ半径
lrf : Rrフォーク長
φ0rr : Rrフォークと X0 軸のなす角 (3)
lrs : 点B と 点 Arr 間の長さ(Rrストローク長代用)
l0rs : 点B と 点 A0rr 間の長さ(Rrストローク全伸長代用)
h0Ar : Rrアクスル軸高 (1)
tr : トレール長
wb : ホイールベース長
φGL : G/L角 (3) (4)
θ0c : キャスター角 (2)

(1) : 初期セット値 (O0X0Z0 上)
(2)θ : 角度定数 θ>0
(3)φ : 角度変数 φの向きは右ねじ方向正
(4) : π2φGLπ2
(5) : Rrサスペンション全屈時のアクスル位置より上

Note1:ここでのパラメータ各値は図③モデルに従った正か0を想定しているが、負の値をとるのも可 (アクスルオフセット値が図③モデルと逆方向で、負になるとか)。
Note2:(O0X0Z0 座標系は右手&右ねじで設定し、計算時の正負はそれに従う

-> 車両をスタンドに乗せたフロント&リアサス全伸び状態からモデル作成開始

フロントアクスル位置の算出 (Step1)

(計算 Step1)

座標系は O0X0Z0 を使用

Frアクスル位置( O0Aft )は、図④の赤矢印ルート上にあるベクトルがその位置算出に使用するベクトルとなるが、これは単に点をなぞっていくだけの単純なベクトルの足し算

O0Aft=O0Hpl+HplJ+JL+LAft ・・・(1)

図④

ここで

  • n0c:キャスター角下向きの方向ベクトル ( |n0c| = 1:単位ベクトル)
  • m0c:フロントアクスル方向にむかい、n0c に直交する単位ベクトル ( |m0c| = 1:単位ベクトル)

の二つのベクトルを設定する。

これらと図③の各パラメータ値を使い①式を書き直せば、フロントアクスル位置を示す O0Aft

O0Aft=O0Hpl+lfsn0c+foffm0c+aoffm0c=O0Hpl+lfsn0c+(foff+aoff)m0c (2)

あとはこれを座標に落とし込めばよい。

まず、n0c はキャスター角下向き方向の単位ベクトルより、

n0c =(cos(π2+θ0c)sin(π2+θ0c) ) = (sinθ0ccosθ0c )(3)

m0cn0cは互いに直行から m0cn0c=0

これに向きと m0c は単位ベクトルである事を踏まえれば、

m0c = (cosθ0csinθ0c )(4)

(3)(4)のベクトルを使い、O0Aft=(x0Aftz0Aft )O0Hpl=(x0Hpz0Hp ) とすれば、(2)式 は、

O0Aft=(x0Aftz0Aft )=(x0Hpz0Hp ) +lfs(sinθ0ccosθ0c ) +(foff+aoff)(cosθ0csinθ0c )=(x0Hplfssinθ0c(foff+aoff)cosθ0cz0Hplfscosθ0c+(foff+aoff)sinθ0c )(5) 

となり、これが、O0X0Z0 における 原点O0 からFrアクスル位置へのベクトル成分値(座標値)。

リアアクスル位置算出 (Step2)

(計算 Step2)

座標系は O0X0Z0 を使用

座標系 O0X0Z0 上のRrアクスル位置 (x0Arrz0Arr )(=O0Arr ) はシンプルに、

O0Arr = (x0Arrz0Arr ) = lrf(cosφrrsinφrr )(6)

でもよいが、ストロークによるRrフォークの角度変化を追いかけるのも一苦労なので、長さ測定で車両諸元変化が算出できるように、ひと手間。

図④

Rrサスペンション全屈時のアクスル位置より上にとったばね上(フレームボディ上)の固定点B (x0Bz0B ) をRrストローク長測定の代用基準点として使う事にする。

OBの延長上の(∠O0BArr=π2 ) となる点をB’点 として、

O0Arr = O0B+BArr ・・・(7)

とみた 図④ の緑矢印ルート上にあるベクトルが、Rrアクスル位置に算出に使用するベクトル。

さて、まずは各ベクトルの方向を求める。

点B’はOBの延長線上である事を踏まえれば、O0B 方向の単位ベクトル n0B は、

n0B = 1lB(x0Bz0B ) ・・・(8)

また、O0B に対して 法線方向であるBArrの単位ベクトルm0B は、方向をふまえれば

m0B = 1lrs(z0Bx0B ) ( ∵ m0Bn0B=0 ) ・・・(9)

次は各ベクトルの長さを求める。

まずは、長さ算出に使用する角 BOArr ( 以下 φArr ) を求めてみる。

三角形 ⊿O0BArr に着目すれば、3辺はわかっているので、φArr に余弦定理が使える。つまり、

cosφArr = lB2+lrf2lrs22lBlrf ・・・(10)

ついでに sinφArr は、

sinφArr = ±1cos2φArr ・・・(11)

Note:計算式の簡易化のため、以降の式内では cosφArrsinφArr これ以上展開せずそのまま使用(cos/sin値の算出自体は、エクセル等の計算ソフトにお任せ。一旦算出してから他の式に適用。)

さて、ひき続いて直角三角形 ⊿O0BArr に着目すれば、ベクトルの大きさ |O0B||BArr| は、上のcos値、sin値を使えばそれぞれ

|O0B| = |cosφArr|lrf ・・・(12)
|BArr| = |sinφArr|lrf ・・・(13)

(8)(9)(10)(11)より、(7)式は

O0Arr=(x0Arrz0Arr )=O0B+BArr=|O0B|n0B+|BArr|m0B=|cosφArr|lrf1lB(x0Bz0B )+|sinφArr|lrf1lrs(z0Bx0B )=lrf(|cosφArr|lBx0B+|sinφArr|lrsz0B|cosφArr|lBz0B  |sinφArr|lrsx0B )(14)

( ここで、cosφArr = lB2+lrf2lrs22lBlrfsinφArr = ±1cos2φArr )

となり、これが、O0X0Z0 における 原点O0 から(点B経由の)Rrアクスル位置へのベクトル成分値(座標値)

グランドライン(G/L)の傾き算出 (Step3)

(計算 Step3)

さて、ここまでで求めたFrアクスル座標、Rrアクスル座標は、式の簡易化のため以降の記載では以下のまま。

Frアクスル軸:O0Aft=(x0Aftz0Aft ) 、Rrアクスル軸:O0Arr=(x0Arrz0Arr )

さて新たに、Frタイヤの接地点を点 Gft, Rrタイヤの接地点を点 Grr を設定して、前後各アクスル軸から各接地点へのベクトルを見れば、

ArrGrr = rrr(cos(π2+φGL)sin(π2+φGL) ) = rrr(sinφGLcosφGL ) ・・・(15)

AftGfr = rfr(cos(π2+φGL)sin(π2+φGL) ) = rft(sinφGLcosφGL ) ・・・(16)

である。また、G/LはFrタイヤ&Rrタイヤの双方の接線が故、(15)(16)ベクトルはG/Lに直角、つまり

ArrGrrGrrGft=AftGftGftGrr=0

図⑥

さてこれに、Frのタイヤ半径( rft )とRrのタイヤ半径( rrr )を使えば、Fr&Rrタイヤの任意の位置におけるO0X0Z0 上のG/L の傾き φGL が算出できる。

まず、直角三角形 ⊿ArrGrrGft に着目する。(Fr/Rr どちらでも構わないが、ココではRr側を使う)

G/LはFrタイヤ&Rrタイヤの双方の接線となる事、またベクトルの内積は投影である事を利用すれば、Rrアクスルを基点にもつ二つのベクトル ArrGrrArrGft の内積は(ベクトル同士のなす角は ψ )、

ArrGrrArrGft=|ArrGrr| |ArrGft|cosψ=rrrrrr=rrr2(17)
(∵ ArrGrrGft=π2 より、|ArrGft|cosψ=rrr)

が成立している事がわかる(図⑥の橙ベクトル同士の内積)。これを利用する(注記あり)。

図⑥の緑ルート上のベクトルに分解すれば

rrr2=ArrGrrArrGft=(AftGft + O0Aft  O0Arr)ArrGrr=AftGftArrGrr + O0AftArrGrr  O0ArrArrGrr(18)

これに成分値をいれれば、φGL (π2φGLπ2 ) に関する関係式が出てくる。つまり、

rrr2=AftGftArrGrr + O0AftArrGrr  O0ArrArrGrrrrr2=rft(sinφGLcosφGL )rrr(sinφGLcosφGL )+(x0Aftz0Aft )rrr(sinφGLcosφGL )  (x0Arrz0Arr )rrr(sinφGLcosφGL )=rft(sin2φGL+cos2φGL)+(x0AftsinφGLz0AftcosφGL)(x0ArrsinφGL  z0ArrcosφGL)=rft  (x0Arrx0Aft)sinφGL+(z0Arrz0Aft)cosφGL

つまり、

(z0Arrz0Aft)cosφGL  (x0Arrx0Aft)sinφGL=(rrr  rft)

ここで、az=z0Arrz0Aft , ax=x0Arrx0Aft , ar=rrrrft とおけば、これは

azcosφGL  axsinφGL=ar ・・・(19)

であり、 sinα=azax2+az2 , cosα=axax2+az2 となる角度αを設定すれば、正弦の加法定理が使える。

つまり、(19)式は

ax2+az2(sinαcosφGL  cosαsinφGL)=ar となり

sin(αφGL)=arax2+az2 ・・・(20)

となる。これから

αφGL=arcsin(arax2+az2)

よって、

φGL=α  arcsin(arax2+az2) ・・・(21)

により φGL が求まる。式から見ての通り、タイヤ径が同じ (ar=0) であれば前後アクスル軸の位置の差がそのままG/Lの傾き(まぁ、当然か。。)

注記1:角度αについて

(20)式がシンプルになったので、あれ?と思い図を書いてみた。

計算前に一旦下の図に気づいていれば、ベクトル計算は不要だったかもなぁと。。。G/Lの角度出すだけだし。。。

ちゃんちゃん。。と。
(まぁ、思いつかなくてもベクトル使えば求まるという事で。。)

G/Lを基準とした座標系とその変換: (Step4)

(計算 Step4

さて、算出したφGL を使った回転行列 RφGLO0X0Z0 を変換すれば、G/Lを基準とした新規座標系 O0X1Z1 が設定できる。(= 任意位置の前後タイヤの接線を結んだG/Lを基準にした座標系。)

回転行列 RφGL は、RφGL = (cosφGLsinφGLsinφGLcosφGL) ・・・(22) であることから、

もとの座標系 O0X0Z0上の任意点 (x0,z0)O0X1Z1 上へ変換した点 (x,z) は、

(xz )=RφGL(x0z0 )=(cosφGLsinφGLsinφGLcosφGL)(x0z0 )=(cosφGLx0+sinφGLz0sinφGLx0+cosφGLz0 )(23)

これが変換のベース。これに後はベクトルの足し算引き算で、G/L基準の座標系での車両諸元値が求まる。

(回転行列詳細については、以下の記事に)

G/L基準の車両諸元算出 (Step5)

(計算の流れ:Step5)

G/L基準のキャスター角

さてここまでこれば、あと少し。まずは、以下の図⑦をベースに。

図⑦

O0X1Z1 上でのキャスター角 θc は、O0X0Z0 での θ0cφGL を足すだけ。

θc=θ0c+φGL ・・・(24)

G/L基準のホイールベース計算

⑤式で使った Frアクスル座標 (x0Aftz0Aft ), ⑭式で使った Rrアクスル座標 (x0Arrz0Arr ) を使う。(共に O0X0Z0 上の座標 )

ここで、O0X1Z1 上での Frアクスル座標を (xAftzAft ) 、Rrアクスル座標を (xArrzArr ) とすれば、(23)式をつかって

(xAftzAft )=RφGL(x0Aftz0Aft )=(cosφGLx0Aft+sinφGLz0AftsinφGLx0Aft+cosφGLz0Aft )(25)

(xArrzArr )=RφGL(x0Arrz0Arr )=(cosφGLx0Arr+sinφGLz0ArrsinφGLx0Arr+cosφGLz0Arr )(26)

となる。

さて、ホイールベース wb はG/L方向のアクスル軸間の長さとなるため、x座標同士を引けばよいだけ。

よって、

wb=xArrxAft=(cosφGLx0Arr+sinφGLz0Arr)  (cosφGLx0Aft+sinφGLz0Aft)=cosφGL(x0Arrx0Aft)+sinφGL(z0Arrz0Aft)(27)

にて、G/L基準のホイールベースが算出できる。

G/L傾き φGL の算出の時に使った(20)式内 の ax=x0Arrx0Aft,az=z0Arrz0Aft を再利用し、あわせて cosα=axax2+az2 , sinα=azax2+az2 も使えば

wb=ax2+az2 (cosαcosφGL + sinαsinφGL)=ax2+az2 cos(αφGL)(28)

(27)式で十分だが、(21)式と同じ ( αφGL) が使えるので、こっちの方が普通かも。。
(面倒な計算せずとも上図を描けば、(28)式に直接たどりつける。。。)

G/L基準のトレール

つづいて、O0X1Z1 において、H/P 軸 (ステアリング軸) を延長しG/L と交わる点を点 Gtr (= (xGtrzGL ) ) として、O0X1Z1におけるトレール長 tr (=|GtrGft|) (G/L基準) を求める。

GtrGft は、原点O0と、(25)式 のFrアクスル軸 Aft 使えば、

GtrGft=O0GftO0Gtr=(O0Aft+AftGft)  O0Gtr(29)

となる。

図⑧

さて、(29) 式内で唯一未知の O0Gtr をまず求める。

O0X1Z1 におけるH/P下端点 Hpl (=(xHPzHP )) のG/Lへの投影点を GHP (=(xHPzGL )) と設定すれば、

O0Gtr=O0GHP+GHPGtr ・・・(30)

ここで、HplGtrGHP(図⑧) に着目し、O0X1Z1 上のG/L方向の単位ベクトル nG = (10 ) 、キャスター角φc (φc=θ0c+φGL) とすれば、(30)式内の GHPGtr は、

GHPGtr=|GHPHpl|tan|φc|(nG) ・・・(31)

である事から、(31)式 を (30)式 に入れ込めば、O0Gtr

O0Gtr=O0GHP+GHPGtr=O0GHP  |GHPHpl|tan|φc|nG(32)

求めたいGtrGftは、(29)式に(32)式を代入して

GtrGft=(O0Aft+AftGft)  O0Gtr=(O0Aft+AftGft)  (O0GHP  |GHPHpl|tan|φc|nG)=O0Aft+AftGft  O0GHP + |GHPHpl|tan|φc|nG

となる。これに、|GHPHpl|=zHp  (zAftrft)(zGL=zAftrft) を踏まえ、成分値をいれれば、

GtrGft=(xAftzAft )+(0rft )  (xHPzGL ) +( zHp  (zAftrft))tan|φc|(10 )=( xAft  xHP + (zHp (zAft  rft))tan|φc|0 )

となる。トレール長 tr=|GftGtr| は、 成分そのままで

tr=|xAft  xHP +( zHpzAft+rft)tan|φc|| ・・・(34)

で求まる。

あとは O0X1Z1 における成分値を取り込めばよいだけ。(23)式より

(xAftzAft ) = (cosφGLx0Aft+sinφGLz0AftsinφGLx0Aft+cosφGLz0Aft ) ・・・(35)

(xHPzHP ) = (cosφGLx0HP+sinφGLz0HPsinφGLx0HP+cosφGLz0HP ) ・・・(36)

を使って、(34)式に代入すれば

tr=|(cosφGLx0Aft+sinφGLz0Aft)  (cosφGLx0HP+sinφGLz0HP)  (sinφGLx0HP  cosφGLz0HP)tan|(θ0c+φGL)|+(sinφGLx0Aft  cosφGLz0Aft)tan|(θ0c+φGL)|+rfttan|(θ0c+φGL)||(37)

で、(37) 式内の値は全て既知(今までの設定、算出値)となるので、G/L基準でのトレール長の算出は完了。

G/L基準のその他座標値の位置

O0X0Z0 上のばね上の任意の点(クランク位置、カウンター位置等々)の O0X1Z1 への変換は、(23)式を使うだけなので割愛。

で、主な計算は完了と。。。

追加の計算

フロントアクスル位置ちょっと細かい版 (Step1 補足)

フロントアクスル軸( O0Aft )については、変更できる諸元値がそこそこあるので(サス長変えたり、オフセット変えたり、サスの突き出し量を変えたり等々)、ついでに式に組み込んでおこうと。

同様に点をなぞっていくだけで、単純なベクトルの足し算はStep.1と変わらない。

O0Aft=O0Hpl+HplC+CD+DE+EF+FK+KA0ft+A0ftAft ・・・(38)

この(38)式に、Step1と同様にキャスター角方向の方向ベクトル n0c ( |n0c| = 1) それに直交するベクトル m0c ( |m0c| = 1) を使えば、フロントアクスル位置 O0Aftは、

O0Aft=O0Hpl+thp(n0c)+ttb(n0c)+foffm0c+uff(n0c)+lffn0c+aoffm0c+sfr(n0c)=O0Hpl(thp+ttb+ufflff+sfr)n0c+(foff+aoff)m0c(39) 

あとはこれを座標に落とし込めばよい。

O0X0Z0上でのベクトル成分 O0Aft=(x0Aftz0Aft )O0Hpl=(x0Hpz0Hp ) を使い、

また、Step1から n0c= (sinθc0cosθc0 )m0c = (cosθc0sinθc0 ) を使えば、(39)式は、

(x0Aftz0Aft )=(x0Hpz0Hp )+(thp+ttb+ufflff+sfr)(sinθc0cosθc0 )+(foff+aoff)(cosθc0sinθc0 )=(x0Hp+(thp+ttb+ufflff+sfr)sinθc0(foff+aoff)cosθc0z0Hp+(thp+ttb+ufflff+sfr)cosθc0+(foff+aoff)sinθc0 )(40)

フロントサス廻りのセッティング変更で変えそうなパラメータは一通り入っているかと。

高さからのH/P座標、点Bの座標値算出

ばね上を固定するH/P下端点 Hpl(Frサスストロークの基準点)と点 B(Rrサスストロークの基準点)の O0X0Z0 上における座標は、O0Hpl=(x0Hpz0Hp )O0B=(xBzB ) で設定しているが、少し追加。

というのも、直接測定のできる

  • O0-点Hpl 間の長さ : lHpl
  • O0-点B長さ : lB

と 計測しやすい鉛直方向の方向の 各点の高さ

  • h0Hph0Oh0B

を使っての座標算出の覚書。単純に三平方の定理と引き算を使うだけ

(車両モデルの座標定義から)、O0X0Z0に固定した車両モデルの H/P位置は x<0 である事を踏まえれば、それぞれの座標値は、

(x0Hpz0Hp )=(lHPl2(h0Hph0O)2h0Hph0O ) ・・・(41)

(x0Bz0B )=(lB2(h0Bh0O)2h0Bh0O ) ・・・(42)

車両幅方向の補正

モデルはXZ平面上での二次元としたため、車両幅方向の測定点ずれ用の補正の覚書。実測定長さは以下で補正。

車両の幅方向のずれを ladj、測定実長を lact、計算に使う値を lxx とすれば

lxx=lact2ladj2) ・・・(43)

で補正

Note: 車両幅方向の測定点ずれとは、例えば、B点基準のリアストローク長 lrsへの補正。
下の図でいえば lxxlrsになり、実測したlactを車両幅方向の測定点ずれ ladj にて補正し、lrsとして計算に使用。

実測時に計測点が車両幅一致する箇所で計測可能な場合は少ないかと思うので、補正を忘れぬようにと覚書

注記:G/Lの接線について

追加の覚書、上ではG/LはFrタイヤ&Rrタイヤの双方の接線となる事を使っているが、この(17)式の内積のみであれば、2つの円の接線は4通り成立するはず(下図)。

が、場合分けはちょっと面倒くさいので、ここでは

  • (15)&(16)式で同じ方向のベクトルに設定、かつ
  • φGLπ2φGLπ2 である事を利用して、(15)&(16)式の方向ベクトルを下向きに限定
    z 軸成分値は常に負 (cosφGL) )

とすることにより、不要な3つの接線を対称から外し、必要なG/Lのみに限定させている(ちょっと強引)

さいごに

まぁ、今どき手計算でやる人はいないとは思うが、(実際はソフトで計算するにしろ)なんだ意外と簡単に手でも計算組めるじゃん、の実感があるのは悪くない。

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