説得的コミュニケーションとは
同じ情報が発信されても、説得される人もいれば、全く聞いていない人もいる。
人は情報の提供から説得されるまでの中で、その要因と過程がどうなっているか。
説得的コミュニケーションの研究では、人が説得されるまでの要因である ”送り手+内容+経路+受け手” への分析が研究対象。
今回も参考にしているのは以下の本。
説得的コミュニケーションの研究
説得的コミュニケーション(persuasive communication)の研究は、メディアの広告に代表される多くのプロパガンダ戦略に必要なものであり、1950年代より社会心理学において様々な研究がされてきた分野の一つであるそうだ。
この分野は、
- メッセージの送り手
- メッセージの内容
- 伝達経路
- メッセージの受け手
の様々な特徴を体系的に実験 / 分析する事により、効果的な説得の手がかりになる要因を研究する分野。
メッセージの送り手
説得的コミュニケーションにおける”メッセージの送り手”として、その人の持つ専門性、信頼性が有効である事はいうまでもないが、送り手としてはそ人のもつ魅力、権威性も大きい。
これは、人気のスポーツ選手が清涼飲料水の宣伝をしたり、人気タレントがCMで自動車を売り込む等、何ら商品とは関係ないのに、宣伝効果がある事をみれば理解できるかと。
メッセージの内容
”メッセージの内容”に関しては、”メッセージの反復”、”歌にする”、”論理的メッセージと情緒的なメッセージを織り交ぜる” といった事が効果的と記されている。
スローガン、テーマ曲等々がこれに当たるかと。
伝達経路、メッセージの受け手
”伝達経路、メッセージの受け手”については、複数のタイプの研究(以下)が研究されているとの事。
- 熟慮傾向モデル
- 気移り効果
- 接種効果
- 感情の操作
熟慮傾向モデル
伝達経路、受け手側の情報処理過程の研究について「熟慮傾向モデル(elaboration likelihood model)」 が一例として提示されている。
Petty,R.E.&Cacioppo,J.T.,(1986)は、説得の受け手側に当該の問題を思考する能力や動機付けがあるかどうかという視点から、説得の過程を、周辺ルート&中心ルートとに整理を行った。
その結果、受け手にメッセージの妥当性を検討する能力は動機付けが低いときには、メッセージの内容そのものを吟味するのではなく、周辺ルート、すなわち送り手の信憑性、魅力、勢力といった手がかりに影響されて信念が変化するという結論を導き出した。
ただし、周辺ルートは一時的な影響力しかない。
一方受け手に、能力も動機付けも共に十分にあるときには、説得の過程はメッセージの内容を深く吟味するといった中心的ルートを通り、固定的な影響を及ぼすことに成功する可能性が高まるとこのモデルは予測する。
これによると、動機付けの低い人を説得しようと試みる場合、まず
の順に行われると、人はまるで中心ルートを通った説得過程を受けたようなに感じさせられる。
つまり、(最初の一歩はなんとなく聞きはじめたつもりでも)自分で考えて納得したと思わされるとの事。
気移り効果
気移り効果(distraction effect)とは、気をそらす事により、説得に対する抵抗力を弱めさせる方法の事を述べている
説得をしやすくするため、話し手が説得しようという意図を持っていることを聞き手に認知させずに、説得の事項とは関係の無い事項に注目させながら、説得メッセージを送る方法。
これはもちろん、 説得しようとしている内容が予め伝わると説得が困難になるからであるが、印象のよさそうなものを装い接触する事で、説得に対しての抵抗力が弱くなる一定の効果がある事は、実験によって証明されている。
宗教団体等が新メンバー勧誘の際、組織の実名を隠すもしくは別の名前を名乗ることはこの効果を狙ったものである。
接種効果
接種効果(inoculation effect)とは、一旦説得してもその後に別の人から聞くであろう反論/否定的な意見に対し、先手を打って抵抗力を強めておく方法の事。
つまり、説得後に反対意見を聞いても聞き手が元に戻らない様に、説得内容に反対する情報(弱めた情報)を予めわざと提供しておき、事前準備させておくというもの。
反対意見 に対する抵抗の仕方や反論する論理を事前に構築する事ができるため、反対意見/否定的な意見に対して抵抗力が高まる。
つまり、予防接種のような効果がある。
組織批判等があっても、内部の人が聞き耳を持たない状況はよく見られるが、彼らなりにすでに予想済み。それに対する彼らなりの筋の通った回答は、すでに準備済みなのである。
感情の操作
これは、快あるいは不快な感情を喚起することにより、人間の情報処理過程の論理性をゆがめる事により、説得への効果を狙うもの。
(不快な感情よりも)快の感情を持たした上での説得のほうが、効果があるとされている。
不快な感情側には、罪悪感、恐怖感等は受け手側に心理的な防衛機制が働き、問題からの逃避 / 送り手側の意図に疑問を喚起する等により、逆効果が起こる可能性があるためである。