意思決定過程:ボトムアップ情報の選択
前回の”意思決定過程とトップダウン情報” から引き続き、今回は”ボトムアップ情報の選択”。
今回もメインは以下の本より。
ボトムアップ情報 (判断材料)
ボトムアップ情報とは、意思決定(判断)を行うための材料、つまり判断材料である。
人は自分の周囲にある膨大な情報から、限られた時間の中でそのごく一部から選択している。
人が意思決定を行う際に、どの様なボトムアップ情報を選びやすいか/注目しやすいか(帰属過程の研究)、どの様な方法が効果的か(説得的コミュニケーションの研究)を知る事は、人の意思決定の仕組みを知る上で必要な要因。
帰属過程とは
ほぼすべての人があらゆる自然&社会現象は、 ”原因があり結果に至る” という事は知っている。
ただ時間が流れている以上、通常先に目にするのは、”結果”からである。先に原因を確認してから結果を見るのはまれである。
多くの場合、人は結果を観察する事から、原因や責任の所在を推論する。本来あいまいな因果関係を特定の原因に帰属させる推論過程を、社会心理学の用語では帰属過程(attribution process)と呼び、それに関する理論の総称を帰属理論という(Heider.Fが最初に提唱)。
またこの推論において、”人がどのような情報に注目しやすいか?” が帰属過程の研究対象 。
帰属過程の研究:人が原因の所在を推論する時のパターン
Rotter,J.Bの原因帰属理論によれば、人は帰属過程において原因の所在を、
- 内的帰属:“内的な原因”へと推論をすすめる(自責:人物の性格や素質といったモノ)
- 外的帰属:”外的な原因”へと推論をすすめる(他責:その場の状況の力や他者からの影響力といったモノ)
の二つの切り口になると説明する。
原因をどこにもとめるかという概念は”統制の所在”と呼ばれるが、Weiner,Bは上に加えて統制(内部統制/外部統制)と安定性(安定/不安定)からなる二次元の原因帰属理論を提唱。例えば以下
安定(している要因) | 不安定(な要因) | |
内部統制 | 原因はその人 ->本人の先天的、潜在的能力不足 | 原因はその人 ->本人の努力不足 |
外部統制 | 原因は環境 ->課題の困難度 | 原因はは環境 ->運が悪かった |
帰属過程の研究
特に意外で否定的な結果が生じたときに、人は理由を求めてこの”帰属”という思考作業をおこなう傾向が強い事が示されている(Wong,P.T.P.&Weiner,B.,1981)。
Kelley(1967)は、原因帰属の原理の一つである”共変原理”を提唱した。これは、人が帰属という意思決定作業を行う際に、
の3つに着目し、処理されやすいこれらの”注目度が高い情報から、その統制の所在がどう処理されているか(内部/外部帰属)が推察できるとした。(要は人がその原因をどう処理しているか)
弁別性(distinctiveness)
- 何か突出して目立つ情報
特定の状況においてその反応がどれだけユニークであるか、もしくは対称が変わっても同じ反応するかどうか。
その人が全ての状況において同じように行動・反応するのであれば弁別性は低い、特定の状況においてのみその行動・反応する場合に弁別性は高い、となる。
例えば、誰にでも優しければそもそも優しい人(内的帰属)となり、特定の人にだけ優しければその時の環境依存(下心ありとかで外的帰属)とみなす事ができる。
つまり、弁別性が高い場合には、その行動は人ではなく外的な原因、低い場合は内的な原因に帰すると考えられている。
また、暗闇の中で一箇所だけ明るいところがあれば、人はそこに注目しやすい。”通常とは違う事/動き” があると、その箇所に着目されるのはよくある事だが、あくまでも切り口の一つ。
一貫性(consistency)
- 時間や様態を超えて一定している情報
要は状況が変わっても繰返し観察される情報。
例えば、先生の前だけで掃除はするがいなくなるとしないのであれば一貫性はないとされ、その行動はその人の内部に帰さない(先生に良いところを見せたいだけ)。
また、情報としては、ある人から聞く、また別のある人から同じ情報を聞くと、直接&間接的な情報でも、情報の一貫性は高められていく。
合意性(consensus)
- 多くの人によって同じ事が確認された情報(他の人の反応と一致している情報)
要は、多くの人が認めていると”思う”情報。
ある人が多くの人から魅力的と思われているのであれば、それは合意性が高いとされ、逆にある人のみが魅力的だと思うのであれば合意性が低い。要は皆がそうだと思っているか、一部のみか。
これらを評価する事により、その原因を内的な要因(その人の性質)、外的な要因(環境・状況)のどこに帰属をしているか見る事ができる・判断できる可能性が高いとされる。
ちなみに、この帰属過程は論理的に行われるため、”同一情報が与えられれ”ば、別々の人であってもまず同じ結論に達するとされる。
統制の所在
さて、組合せとして
- 弁別性:高、一貫性:高、合意性:高 -> 外部への帰属(他責)
- 弁別性:低、一貫性:高、合意性:低 -> 内部への帰属(自責)
- 弁別性:低、一貫性:低、合意性:高 -> 状況への帰属
例えば、ある会場にて大勢の中で一人だけがある作者を評価している場合”合意性は低”となるが、その評価者が他の会場でもその作者を評価している(”一貫性が高い”)、そしてその評価者は普段は他の作者も普通に評価している(”弁別性が低い”)となれば、この場合その時のその人の評価は、他の作品がどうだったとかいう話ではなくその評価者個人の内部に帰属する(多分その評価者の個人的な推し)。
この3つの切り口にて人を観察する事で、”人がそれをどう捉えてその行動をおこしているか” を推察できるトコロは面白いかも。
帰属エラー「基本的錯誤帰属」
基本、帰属過程は論理的に進められるが、その推論内で人はエラーをしてしまうこともある。
これは「帰属エラー」と呼ばれ、1970-80年代に数多くの研究がされているとの事。
その中でRoss,L.D.,(1977)は、「基本的錯誤帰属(fundamental attribution error)」という概念を発表している。
これは、
との事。この傾向を基本的錯誤帰属という。
(自然現象に対するたわいも無いジョークの「雨男」「雨女」、中世の「魔女狩り」もその例ではないだろうかと著者はいう)。
またWeiner,B(1974)も、帰属過程におこるエラーの特徴を発表している。
本人にとって都合の良い事態は内的に帰属、本人にとって都合の悪い事態は外的に帰属する傾向があると。つまり、
とする傾向があるとしている。
二つをまとめれば、帰属過程において
ということ。
まぁ、心の自己防衛としてはわからなくもないが、人の性質としてこのエラーがある事を踏まえ、失敗時には、まずは自身の中では他責を排除し、自責を主眼にした帰属過程思考で再考してみることも大切という事かと。
-> もちろん、人に見せる必要もない
これは自身の「ビリーフシステム」を正確に保つためである。
続けて
引き続き、説得的コミュニケーションについて。
人が説得されるときにも仕組みがあるそうな。