はじめに
あちこち調べるのが面倒になってきたので、とりあえず概要の覚書(冒頭の番号は追加順)
心理学理論
1. 認知的精緻化モデル(ELM)
認知的精緻化モデル(ELM)とは、人が説得情報を処理する際、内容を深く吟味する中心ルートと、雰囲気や手がかりに基づいて判断する周辺ルートの二経路があると説明する理論。
ELMでは、人がどれだけ深く考えるか(=精緻化の程度)によって、説得は「中心ルート」か「周辺ルート」に分かれると考えられている。
- 中心ルート × 論理(アルゴリズム)的判断 → 判断は安定・持続的・変わりにくい
- 周辺ルート × 直観(ヒューリスティック)的判断 → 判断は不安定・一時的・変わりやすい
どちらが用いられるかは受け手の関心や理解力に左右され、中心ルートによる態度は安定し、周辺ルートによる態度は変わりやすいとされる。
人の考える“深さ”
さて、人の考える“深さ”を決めるのが
動機(Motivation) × 能力(Ability)
これが、人が判断をするときに「中心ルートを通る」か「周辺ルートを通るか」を決める
”動機”(Motivation)とは?
ここでの動機は、「そのテーマについて、どれだけ本気で考えようとするか」
動機の ”高/低” を決める主な3要因
| 1. 個人的関与(関係の深さ) | – 自分に直接関係ある (例 : 来月あなたの税金が上がります) → 高関与 → 動機 高 – 他人事 (例 : 遠い国の税制改正) → 低関与→ 動機 低 |
| 2. 責任感 | – 後で説明しなければならない → 高 – 聞くだけ → 低 |
| 3. 認知欲求(考えるのが好きか) | – 理屈を考えるのが好き → 高 – 面倒 → 低 |
”能力”(Ability)とは?
ここでの能力とは、「実際に深く考えられるだけの条件がそろっているか」
能力の ”高/低” を決める主な3要因:
| 1. 知識の有無 | – 専門知識がある → 能力 高 – 用語が分からない → 能力 低 |
| 2. 時間的余裕 | – じっくり読める → 高 – 急いでいる → 低 |
| 3. 注意力・認知負荷 | – 静かな環境 → 高 – スマホ通知だらけ → 低 |
中心/周辺ルートが分かれる仕組み:「動機 × 能力」
さてELMによれば人が判断するとき、中心/周辺ルートのどちらを選択するかは、以下によりきまる。
③ 動機 × 能力 の組み合わせ
| 動機 | 能力 | ルート | 起きること |
|---|---|---|---|
| 高 | 高 | 中心ルート | 論拠を精査する |
| 高 | 低 | 周辺寄り | 深く考えたいが無理 |
| 低 | 高 | 周辺寄り | 考えられるが考えない |
| 低 | 低 | 周辺ルート | 雰囲気・権威・感情で判断 |
つまり、両方が高いときだけ中心ルートになる。どちらかが欠けると周辺ルートに傾く。
ELMまとめ
- 深く考えるかどうか(中心ルートを通るかどうか)は「動機 × 能力」で決まる。
- 両方高いと中心ルート、どちらか低いと周辺ルート
以下にも関連記事
現代における影響(SNS時代で何がおきるか)
SNSでは:
- 情報過多 → 能力低下
- 関心の分断 → 動機の偏り
- 短文・動画中心 → 精緻化しにくい
結果:周辺ルートが優位になりやすい。
また、Kahnemanの直感型処理(System1)と論理型処理(System2)の特徴(人はそもそも自分が思っているほど論理型処理を使わない事)もふまえれば、SNSを多用する現代人は、物事を深く考える傾向より、わかりやすい情報に慣らされる(上述の”能力”の向上阻害)ことで、感情、雰囲気、権威に流されやすくなる傾向が強くなる。
→ これが現代のエコーチャンバーや感情的分極化と結びつく。
エコーチャンバー(周辺ルートで入手した情報の固定化)については以下。
3. 認知負荷理論
認知負荷理論(Cognitive Load Theory)は、人の作業記憶の容量には限界があり、学習や理解のしやすさはその負荷のかかり方によって左右されるとする理論である。認知負荷は、
- 理解やスキーマ形成に役立つ「本質的(学習促進的)負荷」
- 学習内容そのものの難しさに由来する「内在的負荷」
- 提示方法や説明の不適切さによって生じる「外在的負荷」
に分けられる。
効果的な理解・学習には、「外在的負荷」を減らし、限られた認知資源を「本質的負荷」に向ける設計が重要とされる。
(良い教科書が”良い”と言われる所以)
4. 情報採餌理論とそれに基づく情報設計
情報採餌理論(インフォメーション・フォーラジング理論)とは、人は情報探索を餌探しのように行い、見出しやリンクなどの手がかりから得られそうな価値(情報の匂い)と、時間や理解の手間といった探索コストを比較し、最小の労力で最大の成果が期待できる経路を選ぶと説明する理論。
こちらに詳細
5. 反駁的説得と予防接種理論
反駁的説得とは、
例えば
- 「SNSは危険だと言われるが、正しく使えば情報収集に非常に有効である」
のように、反対意見を取り上げてから論を展開する説得スタイルをさす。
(Note : 反駁(はんばく): 相手の主張に対して反論して打ち破ろうとすること)
またこの説得スタイルを利用する予防接種理論(イノキュレーション理論:William McGuire, 1960年代)とは、あらかじめ弱い反対意見や批判を提示し、それへの反論を示しておくことで「心理的免疫」を作り、人は後に強い説得や攻撃を受けても態度(信念)が揺らぎにくくなるとする理論。
つまり将来の強い説得に対する「抵抗力」を高める理論。
接種効果(inoculation effect)とも呼ばれる(ワクチンの予防接種と似た効果があることからの引用名)。
手法は以下の二つの要因からなる
- 脅威の提示(threat)
「あなたの考えは今後攻撃されるかもしれない」と知らせる→ 対象者の防御意識を高める - 弱い反論+反駁の提示(refutational preemption)
想定される反論を少しだけ提示し、それを論理的に打ち返しておく→ 自分で考え、反論できる力を育てる
ちなみにこれは、マインドコントロールにおいても利用されている。つまり、説得後(コントロール後)に反対意見を聞いても聞き手が元に戻らない様に、説得内容に反対する情報(弱めた情報)を予めわざと提供しておき、事前準備させておくというもの。
←外部からの情報ではたとえそれが正論であっても、その信念が揺るがないように対策がされる(外部からみると、話が通じないように見える)
ちなみに「反駁的説得」はその場で相手を説得する方法、「イノキュレーション理論」は将来の説得に対する“予防”の理論 。
7. 感情調整理論
感情調整理論とは、人が怒りや不安などの感情をそのまま反応するのではなく、注意の向け方や考え方の切り替えによって調整できると説明する理論。
つまり、感情を抑え込むだけでなく出来事の受け止め方を変えることで、感情の強さや持続を和らげ、行動を安定させる事ができるとする考え。
12.予測誤差理論
予測誤差理論(Predictive Processing)は、脳が世界をそのまま受け取って理解しているのではなく、「こうなるはずだ」という予測を常に立て、その予測と実際に入ってくる感覚情報とのズレを調整しながら知覚や判断を行っている、という考え方である。
このズレ(予測誤差)が大きいほど、脳は原因を探り、予測モデルを修正することで学習が進む。
一方で、予測に過度に依存すると、誤差を無視したり歪めたりして、思い込みや認知の偏りが強まることがあると説明する理論である。
13. 認知的不協和理論
認知的不協和理論(フェスティンガー)とは、人が自分の信念・価値観・態度と行動の間に矛盾が生じたとき、心理的な不快感(不協和)を覚え、それを低減しようとする過程を説明する理論。
不協和が生じると、人は行動を改めるだけでなく、都合のよい解釈を加えたり、反対情報を否定・回避したりすることで、整合性を回復しようとする傾向がある。その結果、人は必ずしも客観的事実に従うのではなく、自己概念や一貫性を守る方向に判断を歪めることがあるとされる。
こちらでも
14. ナラティブ・トランスポーテーション理論
ナラティブ・トランスポーテーション理論とは、人が物語に没入すると、現実への批判的思考が弱まり、登場人物の感情や価値観に同調しやすくなると説明する理論である。物語への没入は信念や態度の変化を促し、論理的説得よりも強い影響を与える場合があるとされる。
15. ケースベース推論
ケースベース推論とは、人が問題解決や判断を行う際、抽象的な規則よりも、過去の具体的な事例や経験(ケース)を参照し、それに類似した状況として対応を決める思考様式である。身近で理解しやすい一方、偏った事例に依存すると誤判断を招くことがある。
16. 社会的比較理論
社会的比較理論(Social Comparison Theory:Festinger 1954)とは、人間には「自分の意見や能力を正しく評価したい」という根本的な欲求があり、とくにその評価について客観的で明確な基準が得られない場合、人は他者との比較を通じて自分の能力・価値・立場を判断する傾向があることを説明する理論。この理論によれば、社会的比較は常に起こるものではなく、評価の基準が曖昧・不確実な状況で特に強く生じる心理過程とのこと。
こちらでも
17. 公正世界仮説
公正世界仮説(Just World Hypothesis/1966年:Melvin Lerner)とは、人間は、この世界が「努力した人は報われ、悪いことをした人は罰せられる」という、公正で秩序だった場所であると信じたいという根本的な欲求を持つとする理論。
Lernerによれば、人はこの「世界は公正である」という信念が脅かされる状況に直面すると、その信念を回復・維持する方向に認知を調整しようとする。その過程で、「ずるをしている」「不当に得をしている(ように見える)」人物に対して不快感や道徳的非難、場合によっては怒りといった感情が生じることがある。そして、その人物が不幸な結末を迎えると、人はそれを「正義が回復された」「世界はやはり公正だった」と解釈し、心理的な安心感や納得感を得るとされる。
こちらでも
用語、その他
2. 直感型処理 と 論理型処理 (Kahneman)
カーネマン(Kahneman)による直感型処理(System 1)とは、意識的な努力をほとんど伴わず、自動的・迅速に働く思考様式であり、過去の経験や感情、パターン認識、ヒューリスティック(発見的判断)などに基づいて結論を導く。
System 1 は日常的な判断や即時的な反応に適しているが、文脈によっては特定の方向に偏った誤りを生じやすい。
一方、論理型処理(System 2)とは、注意と時間を使い、前提や根拠、因果関係を検討しながら判断する思考様式であり、アルゴリズム的な推論を含む。
論理型処理は、計算や論理推論、誤りの修正に強く、結論は比較的安定する一方、認知負荷が高く努力を要するため、常に用いられるわけではなく、必要性や余裕があり、違和感や困難が検出された場合に起動しやすい。
直感型処理と論理型処理の対比(System1とSystem2)(概要)
| 直感型処理(System 1) | 論理型処理(System 2) | |
|---|---|---|
| 速度 | 速い | 遅い |
| 努力 | ほぼ不要 | 必要 |
| 制御 | 自動的 | 意識的 |
| 強み | 迅速・低コスト | 正確・一貫的 |
| 弱点 | 偏りが生じやすい | 疲れる・使われにくい |
- 人は自分が思っているほど論理型処理を使っていない
- 多くの判断はまずSystem 1で下され、System 2は「追認」や「言い訳作り」などの「事後的合理化」に回ることが多い
( ただし、誤りに気づき修正できるのはSystem 2だけ )
10. ヒューリスティックと”権威”ヒューリスティック
ヒューリスティックとは、「だいたいこうだろう」「経験上こうなるはずだ」といった思考の近道。
これは、「正確さよりも速さや手軽さを優先する、発見的・経験的な判断のしかた」を指し、近道的・簡便な判断手法として、直感的・発見的な判断に用いられる。
一方で、必ずしも新しい洞察を含むわけではなく、文脈によっては代表性や利用可能性といった認知バイアス(偏り)を生みやすい。
このヒューリスティックの一種に、「権威ヒューリスティック」がある。
これは、内容を十分に検討しないまま、「専門家が言っている」「肩書きがある」といった「誰が言っているか」という権威的手がかりを根拠に判断してしまう思考の近道である。
権威ヒューリスティックは迅速な意思決定に役立つ一方で、検証が省略されやすいため、権威が不適切であった場合や誤情報であっても受け入れてしまう危険があるとされる。
6. 認知再構成
認知再構成(Cognitive Reframing)は、出来事そのものではなく、それに対する解釈や意味づけに注目し、偏った捉え方や自動思考を別の視点に置き換えることで、感情や行動の反応を変える心理技法。
認知行動療法の中核概念で、不安や怒りの軽減、柔軟な判断の促進に用いられる。
8. ロジャーズの来談者中心療法
ロジャーズの来談者中心療法とは、カウンセラーが指示や評価を行わず、共感的理解・無条件の肯定的関心・自己一致の三条件を重視し、来談者が自ら気づき成長する過程を支援する心理療法。
問題解決を与えるのではなく、自己理解と自己受容を深めることで変化が生じると考える。
9. 社会的同調・安全欲求
社会的同調・安全欲求とは、人が集団から逸脱する不安を避け、受け入れられることで心理的安全を確保しようとする傾向を指す。多数派の意見や行動に合わせることで安心感を得る一方、判断が集団規範に引きずられ、誤りや極端化が生じやすくなる側面もあるとされる。
11. 社会的証明
社会的証明(チャルディーニ)とは、人が正しさに迷ったとき、多数の人が選んでいる行動や意見を手がかりに判断する心理原理。「みんなが支持している」「多くの人が使っている」という情報は安心感を与えるが、状況によっては誤った判断や集団的偏りを強める要因にもなる。

