コミュ-2)-2. 人の意思決定の仕組み:ボトムアップ情報(判断材料)の選択と承諾の誘導

2) 人が意思決定する仕組み

はじめに

前回の”意思決定過程とトップダウン情報” から引き続き、今回はボトムアップ情報についてから承諾誘導まで。

今回も参考にしたのは以下の本。こちらからの抜粋

ボトムアップ情報 (判断材料)

ボトムアップ情報とは、意思決定(判断)を行うための材料。つまり判断材料である。

人は自分の周囲にある膨大な情報から、限られた時間の中でごく一部を選択している。

人が意思決定を行う際に、どの様なボトムアップ情報を選びやすいか/注目しやすいか(帰属過程の研究)、どの様な方法が効果的か(説得的コミュニケーションの研究)を知る事は、人の意思決定の仕組みを知る上で必要な要因。

帰属過程とは (判断材料の選択方法)

あらゆる自然&社会現象は原因があり結果に至る事は皆理解をしている。

ただ通常、先に目にするのは結果であり、原因を確認してから結果を見るのはまれである。

多くの場合、人は結果を観察する事から、原因や責任の所在を推論する。

この過程を社会心理学の用語では帰属過程(attribution process)と呼ぶ。

人が意志決定過程においてどのような情報に注目しやすいか?が帰属過程の研究対象 。

帰属過程の研究

帰属過程において特に、意外で否定的な結果が生じたときに、理由を求めてこの帰属という思考作業をおこなう傾向が強い事が示されている(Wong,P.T.P.&Weiner,B.,1981)。

ただし、Kelley(1967)の帰属理論によると人は帰属という意思決定を行う際、

  • 弁別性
  • 一貫性
  • 合意性

の中で注目度が高い情報を選択的に重視するという。

つまり、これらの情報は注目度が高く、また処理されやすい。

弁別性(distinctiveness)

何か突出して目立つ情報

例えば、暗闇の中で一箇所だけ明るいところがあれば、人はそこに注目する。

”通常とは違う事” が行われていたりすると、その箇所に失敗の原因を求めるのはよくある事である。

一貫性(consistency)

時間や様態を超えて常に一定している情報をさす。

要はいつも繰返し観察される情報である。

ある人から聞く、また別のある人から同じ情報を聞くと、直接&間接的な情報でも、一貫性は高められていく。

合意性(consensus)

多くの人によって同じ事が確認される情報である。皆が認めている事実

帰属過程はかなり論理的に行われるとされ、同一情報が与えられれば、別々の人であってもまず同じ結論に達するとされる。

ボトムアップ情報 (判断材料) の操作

帰属過程において人が原因の所在を推論する時のパターン

人は同じ情報が与えられなかったとしても、帰属過程において原因の所在を、

  • ある人物の性格や素質といった“内的な原因”へと推論をすすめる
  • その場の状況の力や他者からの影響力といった“外的な原因”へと推論をすすめる

の二つのパターンになると帰属理論は説明する。

帰属エラー「基本的錯誤帰属」

基本、帰属過程は論理的に進められるが、その推論内で人はエラーをしてしまうこともある。

これは「帰属エラー」と呼ばれ、1970-80年代に数多くの研究がされているとの事。

その中でRoss,L.D.,(1977)は、「基本的錯誤帰属(fundamental attribution error)」という概念を発表している。

これは、

人は一般に、ある現象の原因を考えるとき、事象の生じた状況のもつ影響力を過小評価し、一方、主体者である人の影響力を過大に評価する推論をしがちである。

との事。この傾向を基本的錯誤帰属という。

(自然現象に対するたわいも無いジョークの「雨男」「雨女」、中世の「魔女狩り」もその例ではないだろうかと著者はいう)。

またWeiner,B(1974)も、帰属過程におこるエラーの特徴を発表している。

本人にとって都合の良い事態は内的に帰属、本人にとって都合の悪い事態は外的に帰属する傾向があると。つまり、

  • 成功もしくは上手にできた結果は自己の努力/能力といった内的な原因の結果
  • 失敗もしくはうまくいかなかった時は運の悪さや他者からの妨害、あるいは課題そのものの困難さといった外的な原因の結果

とする傾向があるとしている。

二つをまとめれば。

帰属過程の分析時、人はその時の状況等の外的な原因を過小評価、人の持つ影響力を過大評価する推論をしがちである。それと同時に、自分のせいではなく、他のせいにする傾向がある

ということ。

まぁ、心の自己防衛としてはわからなくもないが、人の性質として本エラーがある事を踏まえ、失敗時には、まずは自身の中では他責を排除し、自責を主眼にした帰属過程思考で再考してみることも大切という事かと。(もちろん、人に見せる必要もない)

これは自身の「ビリーフシステム」を正確に保つためである。

説得的コミュニケーションとは

情報の提供から説得までの、その要因と過程がどうなっているか。説得的コミュニケーションの研究では、その説得までの要因である ”送り手+内容+経路+受け手” の分析が研究対象。

説得的コミュニケーションの研究

説得的コミュニケーション(persuasive communication)の研究は、メディアの広告に代表される多くのプロパガンダ戦略に必要なものであり、1950年代より社会心理学において様々な研究がされてきた分野の一つであるそうだ。

この分野は、

  • メッセージの送り手
  • メッセージの内容
  • 伝達経路
  • メッセージの受け手

の様々な特徴を体系的に実験 / 分析する事により、効果的な説得の手がかりになる要因を研究する分野。

メッセージの送り手

メッセージの送り手に関して、その人の持つ専門性、信頼性が問われるが、送り手の魅力、権威性が大きくかかわる。

人気のスポーツ選手が清涼飲料水の宣伝をしたり、人気タレントが自動車を売り込む等、実は何ら商品とは関係ないのに、効果があるというもの。

メッセージの内容

メッセージの内容に関しては、メッセージの反復、歌にする、論理的メッセージと情緒的なメッセージを織り交ぜるといった事が効果的と記されている。

伝達経路、メッセージの受け手

伝達経路、メッセージの受け手については、以下の複数のモデルの研究があり、説得への影響が研究されているとの事。

熟慮傾向モデル

伝達経路、受け手側の情報処理過程の研究については「熟慮傾向モデル(elaboration likelihood model)」 が一例として提示されている。

Petty,R.E.&Cacioppo,J.T.,(1986)は、説得の受け手側に当該の問題を思考する能力や動機付けがあるかどうかという視点から、説得の過程を、周辺ルート中心ルートとに整理を行った。

その結果、受け手にメッセージの妥当性を検討する能力は動機付けが低いときには、メッセージの内容そのものを吟味するのではなく、周辺ルート、すなわち送り手の信憑性、魅力、勢力といった手がかりに影響されて信念が変化するという結論を導き出した。

ただし、周辺ルートは一時的な影響力しかない。

一方受け手に、能力も動機付けも共に十分にあるときには、説得の過程はメッセージの内容を深く吟味するといった中心的ルートを通り、固定的な影響を及ぼすことに成功する可能性が高まるとこのモデルは予測する。

これによると、動機付けの低い人を説得しようと試みる場合、まず

  1. 信憑性、魅力の高い送り手の人物からの説得メッセージを送る
  2. 受け手側は、メッセージの内容を吟味する能力、もしくは動機がないものの、そのメッセージを受け取ることで周辺ルートの一時的影響から信念が変化し一時的に説得される。
  3. 送り手側は、その影響力が消えないうちに、次の説得メッセージを呈示する。
  4. そのときには、先に受け入れさせたメッセージを道具として用いて思考させる。それにより、自身が当該の問題を吟味する能力があるかのように錯覚する。

の順に行われると、人はまるで中心ルートを通った説得過程を受けたようなに感じさせられる。

つまり、(最初の一歩はなんとなく聞きはじめたつもりでも)自分で考えて納得したと思わされるとの事。

気移り効果

気移り効果(distraction effect)とは、気をそらす事により、説得に対する抵抗力を弱めさせる方法の事を述べている

説得をしやすくするため、話し手が説得しようという意図を持っていることを聞き手に認知させずに、説得の事項とは関係の無い事項に注目させながら、説得メッセージを送る方法。

これはもちろん、 説得しようとしている内容が予め伝わると説得が困難になるからであるが、印象のよさそうなものを装い接触する事で、説得に対しての抵抗力が弱くなる一定の効果がある事は、実験によって証明されている。

宗教団体等が新メンバー勧誘の際、組織の実名を隠すもしくは別の名前を名乗ることはこの効果を狙ったものである。

接種効果

接種効果(inoculation effect)とは、一旦説得してもその後に別の人から聞くであろう反論/否定的な意見に対し、先手を打って抵抗力を強めておく方法の事。

つまり、説得後に反対意見を聞いても聞き手が元に戻らない様に、説得内容に反対する情報(弱めた情報)を予めわざと提供しておき、事前準備させておくというもの。

反対意見 に対する抵抗の仕方や反論する論理を事前に構築する事ができるため、反対意見/否定的な意見に対して抵抗力が高まる。

つまり、予防接種のような効果がある。

組織批判等があっても、内部の人が聞き耳を持たない状況はよく見られるが、彼らなりにすでに予想済み。それに対する彼らなりの筋の通った回答は、すでに準備済みなのである。

感情の操作

これは、快あるいは不快な感情を喚起することにより、人間の情報処理過程の論理性をゆがめる事により、説得への効果を狙うもの。

(不快な感情よりも)快の感情を持たした上での説得のほうが、効果があるとされている。

不快な感情側には、罪悪感、恐怖感等は受け手側に心理的な防衛機制が働き、問題からの逃避 / 送り手側の意図に疑問を喚起する等により、逆効果が起こる可能性があるためである。

承諾誘導(説得に対する応諾)

状況の拘束力

「状況の拘束力」とは、人間の行動は自由意志のみによるものだけでなく、他者や社会から明らかな、あるいは気付きにくい形で、ある方向へと行動を導こうとするなんらかの別の要求がある。

これを「状況の拘束力」と呼び、社会心理学では個人の行動に常に作用していると考える。

具体的には、常識 / パラダイム等々、当たり前の事として、”無意識”に処理をさせる力の事。

例えば報道をみても、いじめ事件、殺人事件などの原因解析を、前述の“基本的錯誤帰属”から人の影響を過大評価、続いて(これも前述の)“弁別性”によりその人物の性格や動機、特異な経歴などの素質的な要因に帰着し報道される傾向にあるが、この「状況の拘束力」を見なくては、片手落ちとなるとされている。

常識として処理するため、その社会(コミュニティー)の中にいる限り、確かに要因として気付かないかも。

その 社会(コミュニティー)から離れて初めて、あれってなんか変だった?と気づく事は確かにある。

ヒューリスティック(発見法)を使った承諾誘導

Cialdini,R.,(1988)によると、状況の力を利用して、個人の行動を誘導する中心的なポイントは、行動の連鎖にあるという。

つまり人間を含め、多くの動物の行動には、ある引き金となる状況が与えられると固定的で自動的な行動が反応として見られる。

つまり我々の意思決定の「装置」は特定の状況を理解すると、それに応じた特定のトップダウン情報を固定的&自動的に用いようとする傾向がみられる。

つまり人は特定の状況において、まるで機械のように自動的な反応を引き起こしてしまうという。

これを ヒューリスティック (heuristic:発見法)とよび、人の情報処理の特徴の一つである。

人間は問題の解決、何かを考えて物事の判断をする時にこれを使用する。

これは例えるなら、迷路パズルを解くときに、人は全てのルートを消し込んでいくのではなく、通り抜けられそうなルートを選んでみてはトライする。

この様な方法は必ずしも成功するとは限らないが、うまく行けば楽に早く出来るかもしれない。
また、実際にうまくいく場合が多い。

ある意味、問題解決の発見の一つであり、全てを検討せずに結論を出す心理的簡便方法である。

ちなみに、これに対するのがアルゴリズム」(論理)である。これは理詰めで結論を導き出す。

この差異の例をあげるのであれば、実際には自動車事故の方が死亡確率が高いのに、センセーショナルなニュースとして飛行機事故は報道されるため、人は飛行機事故に巻き込まれるのを恐れる。

これは意思決定が、アルゴリズムではなく、ヒューリスティックで処理されているためである。

承諾誘導のため、話し手はこれを利用する。

つまり、人が自動反応する状況下で簡便法的な効率性と経済性を重んじる方向で情報を処理する「ヒューリスティック」を利用させるように仕向けるのが手法の一つとなる。

別の言い方をすると、人の心理を利用し意思決定に「アルゴリズム」を使わせない方が説得しやすいのである。

まぁ、そもそもほとんどの人が普段の生活においては「ヒューリスティック」を利用しており、行動を決めるときにいちいち深く考えている人はそうはいない。

(というか、そもそも「アルゴリズム」的な考え方をしない人もいるし。。。)

さて、この自動反応「ヒューリスティック」を引き出すのは、以下の5つの条件(状況)にまとめられるとのこと。

  • 返報性
  • コミットメントと一貫性
  • 好意性
  • 希少性
  • 権威性

返報性

いわゆる「ギブ&テイク」、「社会的交換(Social Exchange)」。

人は「お金」、「品物」、「愛情」、「奉仕」、「情報」、「名誉」という六つの資源に価値を置き、与えられた資源に対しは等価になるよう交換可能な資源を与えるという。

自分が相手に支払ったコストと、相手から得られた報酬との間でうまくバランスが取れていないとき、不快な感情となる。

逆の場合は罪悪感を覚える。人はこの罪悪感から逃れようと、人は自動的に相手の要請に応えるという返報的な行動に出やすい。

セールスの世界では「door in the face」の技術がこれを利用している。

つまり、最初に受け入れがたい大きな要請を要求し、相手に一旦拒否させる。その後要請者は譲歩して、目的の要求を出すというもの。

「相手を譲歩させた」という認知が相手に「何かしらのお返しをしなければ」という気持ちを生じさせることにより、相手方の譲歩を引き出す。

コミットメントと一貫性

コミットメントさせることが、この一貫性の自動的行動を引き出すキー。

セールスの世界では「Low ball」「Foot in the door」の技術がこれを利用している。

つまり、最初は誰でも承諾しそうな要求を出しそれを承諾させる。その後、新しい要求を加えていく。加えていく毎に、その都度要求を承諾させながら、最終的に計画通りの要求をし、承諾に持ち込む技術。

人は自己に誠実であろうとする、また人に悪い印象を与えたくない心理が働き、一貫した行動を取ろうとする。結果、強引な強制を感じることなく要請者の本来の要求に引き寄せられていく。

好意性

個人は好意を示してくれる相手に対して好意的な行動を示してしまうものらしい。

好意や愛情というのは人間にとって心理的に快い感情をもたらすことから、ある意味、返報性の一つである。

また、相手からの好感度を高めるには、

  • 相手との意見や嗜好の類似性が高い事
  • 近接性(接触頻度)の多い事
  • 好意の相互性(相手から好意を示されること(褒められる、お世辞を言われる))

が要素としてあげられる。

希少性

ある対象に対し、自由に選択の余地がない状況になると、自由度の広い状況のときよりも、魅力が高くなるという。

セールスの世界では「限定販売」「先着何名様まで」「品薄」といったように数を限ったりする。

この心理状態は“心理的リアクタンス理論(psychological reactance theory)”にて説明できるそうである。

権威性

人は権威者がいる時、その人に行動の責任を預けて、命令に自動的に服従しやすくなるとの事。Milgram,S (1965)の「アイヒマン実験」が有名。

まぁ、怪しい団体含め、有名人なり権威者の名前を全面に出して広告は行われる。
そこに関連がなくとも、事実を並べるより人は耳を傾けやすく、また無条件に受け入れられやすい事を知っているからである。つまり、ヒューリスティック狙いである。その有効性については日常でよく目にするので理解しやすい。

続けて

引き続き、意思決定構造のゆらぎについて。
意思決定構造 (ビリーフシステム)自体が人の心理、人としての性質から揺れ動く事も知っておいて損はないかと。

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