認知的精緻化モデル(ELM)とは
認知的精緻化モデル(ELM)とは、人が説得情報を処理する際に、
- 内容を深く吟味する「中心ルート」と、
- 雰囲気や手がかりに基づいて判断する「周辺ルート」
の二経路があるとする理論である。
ELMでは、人がどれだけ深く考えるか(=精緻化の程度)によって、説得がどちらのルートを通るかが決まると考えられている。
「中心ルート」と「周辺ルート」
- 中心ルート × 「論理的・分析的判断」
→ 判断は安定・持続的で変わりにくい - 周辺ルート × 「ヒューリスティックなどの手がかりに依存した判断」
→ 判断は不安定・一時的で変わりやすい
一般に、中心ルートによる態度は安定し、周辺ルートによる態度は変化しやすいとされる。
また、どちらのルートが用いられるかは、受け手の関心や理解力に左右される。なお、同一人物であっても状況によってルートは変化する。
人の考える“深さ”
人の思考の深さ(精緻化の程度)を決めるのは、
動機(Motivation) × 能力(Ability)
この「動機 × 能力」の高低によって、情報処理がどの程度精緻化されるかが決まり、その結果として中心ルートか周辺ルートのどちらを通るかが決まる。
”動機”(Motivation)とは?
ここでの動機とは、「そのテーマについて、どれだけ本気で考えようとするか」を指す。
動機の高低を決める主な要因:
| 1. 個人的関与(関係の深さ) | – 自分に直接関係する (例 : 来月あなたの税金が上がる) → 高 – 他人事 (例 : 遠い国の税制改正) → 低 |
| 2. 責任感 | – 後で説明・判断が必要 → 高 – ただ聞くだけ → 低 |
| 3. 認知欲求(考えることへの志向) | – 考えるのが好き → 高 – 面倒に感じる → 低 |
”能力”(Ability)とは?
能力とは、「実際に深く考えるための条件が整っているか」を指す。
能力の高低を決める主な要因:
| 1. 知識の有無 | – 専門知識がある → 高 – 理解できない → 低 |
| 2. 時間的余裕 | – じっくり考えられる → 高 – 急いでいる → 低 |
| 3. 注意力・認知負荷 | – 集中できる環境 → 高 – 雑音や通知が多い → 低 |
中心/周辺ルートが分かれる仕組み:「動機 × 能力」
さてELMによれば判断ルートは、「動機 × 能力」の 高/低 の組み合わせからきまる。
動機 × 能力 の組み合わせ
ELMでは、この2要因が同時に満たされて初めて精緻化が起こる。
| 動機 | 能力 | ルート | 起きること |
|---|---|---|---|
| 高 | 高 | 中心ルート | 論拠を精査する |
| 高 | 低 | 周辺寄り | 考えたいが処理できない |
| 低 | 高 | 周辺寄り | 考えられるが考えない |
| 低 | 低 | 周辺ルート | 手がかり(雰囲気・権威・感情等)から判断 |
つまり、両方が高い場合にのみ中心ルートが成立し、どちらかが欠けると周辺ルートに傾く。
ELMまとめ
- 人が説得情報を処理する際には、「中心ルート」と「周辺ルート」の二経路がある
- 中心ルート経由の判断は安定し、周辺ルート経由の判断は変化しやすい
- 精緻化の程度(深く考えるかどうか)は「動機 × 能力」で決まる
- 両方高いときのみ中心ルート、どちらか低いと周辺ルート寄り、両方低いと周辺ルート
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SNS環境(時代)との関係
SNS環境では以下の特徴がある:
- 情報過多 → 認知資源が分散される
- 関心の分断 → 動機の偏り
- 短文・動画中心 → 精緻化しにくい
その結果、周辺ルートによる判断に偏りやすい環境が形成される。
さらに、ダニエル・カーネマン(Kahneman)の提唱するSystem1(直感)/System2(論理)の観点を踏まえると、人はもともと直感的処理に依存しやすく(人はそもそも自分が思っているほど論理型処理を使っていない)、SNS環境はその傾向をさらに強める。
つまり現代では、深く考えずとも「理解した気になれる」情報処理が促進されやすい環境にあると考えられる。
その結果、感情・雰囲気・権威といった要素に影響される傾向が強くなるのとともに、(同質的な情報への反復接触により態度が強化されるため)エコーチャンバーや感情的分極化が生じやすくなる。
エコーチャンバーについては以下。

