帰納法の概要
観察された複数の事実(事例)から、それらに共通する性質を見出し、一般化された仮説(必ずしも普遍とは限らない)を構築する推論法
(ただしその結論は必ずしも普遍的真理とは限らない)。
帰納法による結論は仮説として導かれるが、その妥当性は観察の質、サンプルの偏り、変数選択、統計的検証などに依存し、十分な検証と反証を経てもなお支持され続ける場合に限り、暫定的に高い信頼性を持つ知識として扱われる。
つまり、その結論は論理的に必然ではなく、あくまで確率的・暫定的なものである。
また、帰納法ではすべての前提が”真”であっても、仮説となる結論が”真”であるとは限らない。(あくまでも”仮説”を作る推論方法)
(前提に含まれていない情報(新たな一般化)が結論で含まれる場合がある)
また観察に基づき「これまでのすべてのAはBであった」と言える場合でも、それは将来にわたって常に成り立つことを保証するものではない。
したがって帰納的推論は、「この結論(仮説)は暫定的なものであり、反例が見つかれば修正または棄却されうる」という性質をもつ。
例:帰納法をつかった仮説立案
人が酔っ払う理由について、
<仮説1>
- <前提1>ビールにはアルコールが含まれている
- <前提2>ウイスキーにはアルコールが含まれている。
→ <仮説(結論)> よって、(おそらく)アルコールは人を酔わせる ( ←観察と整合的で説明力が高い仮説 )
<仮説2>
- <前提1>ビールには水が含まれている
- <前提2>ウイスキーには水が含まれている。
→ <仮説(結論)> よって、(おそらく)水は人を酔わせる ( ←説明力が低く、代替仮説として不適切な仮説 )
→ 同じ前提からでも、着目する要素によって正しい仮説にも誤った仮説にもなり得る
帰納法自体は、推論として人の思考の中で普段からよく使われている(例:これこれがこうだから、xxならこんな事がおきる”はず”)。
ただ、帰納法による結論は仮説であり、その確からしさは観察や検証によって徐々に評価される(真偽が即座に確定するわけではない)。
帰納によって得られた仮説は、その後の観察や検証によって支持の度合いが高められる。
一般には、
- 帰納(仮説形成)→ 演繹(予測導出)→ 検証(反証・支持)
の循環として用いられる。
また、帰納的推論は、一連の観察結果から広範な一般化や原理を導き出す様々な推論方法を指す事から、以下の推論法が帰納的推論法として扱われる。
帰納的推論法 各種
① 枚挙的帰納法(狭義の帰納法):仮説の生成
複数の事実から一般的な仮説を導く推論法
枚挙的帰納法とは、複数の観測事実に共通するパターンを見出し、それを一般化して仮説を構築する推論。
ただし、その結論は論理的に必然ではなく、あくまで確率的・暫定的なものである。
論法:
- <前提1> A1はZを満たす。
- <前提2> A2もZを満たす。
→ <結論(仮説)> したがって、(おそらく)すべてのAはZを満たす。
例:
上の例:<仮説1&2>人が酔っぱらう理由の仮説
枚挙的帰納法とは、要は仮説の「生成」
複数の点(観測事実)をプロットし、それらをできるだけ自然につなぐ一本の線(一般法則)を新たに引くイメージ。
まだ線は仮置きであり、今後新しい点が追加されれば、引き直される可能性がある。
→ 線を引く(まだ線がないから作る)=「生成」
② 逆行推論法(アブダクション):仮説の選択
関連する証拠に対して、説明力・整合性・単純性などの基準で最も適切と評価される仮説を選択する推論法
(注:最も説明力が高い仮説が必ずしも真とは限らない。例えば、天動説は当時の観測データをかなり正確に説明できたが、後により単純で説明力の高い地動説に置き換えられた。)
逆行推論法とは、観測された事実を最もよく説明する仮説を選択する推論。
ここでの「最もよく」とは、主に以下の基準によって評価される。
- 説明力(explanatory power):観測事実をどれだけ自然に説明できるか
- 整合性(consistency):他の既知の知識と矛盾しないか
- 単純性(simplicity):不必要な仮定が少ないか(オッカムの剃刀)
- 予測力(predictive power):新しい事実も説明・予測できるか
つまり、「もっともらしさ」ではなく、観測された事実を最もよく説明する仮説(best explanation)を暫定的に選択する推論である。
論法:
- <前提1> Aは真である。
- <前提2> Zが真であると仮定すれば、Aはうまく説明できる。
→ <結論(仮説)> Zは(おそらく)真である。
例:
- <前提1> 朝起きたら、地面が濡れている
- <前提2> 雨が降ったとすれば、地面が濡れていることはうまく説明できる
→ <結論(仮説)> おそらく雨が降った
→ 観察事実を最もよく説明する仮説(説明力・整合性・単純性などの観点で優れる仮説)を選択するため、実際には「誰かが水を撒いた」「水道管が破裂した」など別の可能性もある
悪い例
- <前提1> この会社は成功した
- <前提2> あの会社も似ている
→ <結論(仮説)> おそらくこの会社は成功するはず
→ 「似ている」の中身が曖昧、成功要因と無関係な類似
類推は「何が似ているか」ではなく、「その類似が結論に関係しているか」で決まる。
逆行推論法とは、要は仮説の「選択」
すでに候補として存在している複数の線(仮説)の中から、観測された点群に最もよくフィットする一本を選び出すイメージ。
新しい線を作るのではなく、「どの線が一番うまく説明しているか」を評価して選択する。
→ 線を選ぶ(過去に存在している線から、比較して最適な線を選ぶ)=「選択」
③ 類推法:仮説の転用
特定の事物に基づく仮説を、それらの間の類似性に基づいて他の特定の事物に適用する推論法
類推法とは、ある対象Aで成立した性質Zが、Aと重要な点で類似する対象Bにも当てはまると推測する推論。
このときの類似性は、Zに因果的・構造的に関係する性質に基づいていなければならない。
論法:
- <前提1> AはZを満たす。
- <前提2> BはAに対して、Zに関連すると考えられる重要な性質において類似している。
→ <結論(仮説)> (おそらく)BはZを満たす。
例:
- <前提1> このメーカーのスマートフォンは品質が高い
- <前提2> 同じメーカーから次世代の新モデルが発売されたが、設計思想やコンセプトが似ている
→ <結論(仮説)> おそらく新モデルも品質が高い
※「似ている」という点に依存するため、内部構造やコスト削減などによる品質低下要素があれば、結論は外れる可能性がある
類推法イメージとは、要は仮説の「転用」
ある領域で点群によく合っていた線(仮説)を、別の似た配置の点群に対しても当てはめてみるイメージ。
ただし「似ている」という前提に依存するため、見かけが似ていても本質が異なれば外れる可能性がある。
→ 線を使い回す(別の場所に似た傾向の線があるから、あてはめて使ってみる)=「転用」
帰納法追記
整理すれば、
| 帰納法 | 推論パターン | |
| 枚挙的帰納法 | 生成 | 「パターンを見出して仮説を作る」 |
| 逆行推論法 | 選択 | 「複数の仮説の中から最も適切なものを選ぶ」 |
| 類推法 | 転用 | 「その仮説を別の対象に適用する」 |
とする推論法である。
導かれるのは仮説なので当然だが、ほとんどの場合帰納法による結論には、”おそらく”、”たぶん”をつけてても違和感はない。
どれも日常的に使われる有用な推論だが不確実性を含むため、根拠を過信すると誤りや詭弁につながる。
特に不十分な根拠や不適切な推論形式にもかかわらず、言い換えや前提の操作によりあたかも妥当であるかのように見せかけて結論(仮説)が導かれているように見える場合、結論が何であれ要再検証。その結論は誤り、もしくは詭弁が入り込んでいる可能性あり。
ちなみに、数学で数学的”帰納法”をつかった証明があるが、これは個々の自然数を確認する方法ではなく、「最初の一つが成り立つこと」と「nで成り立てばn+1でも成り立つこと」を示すことで、すべての自然数に対して命題が成立することを論理的に保証する方法であり、導かれるのは仮説ではない。